ロストの策略で、集まって話をする事になったコール達は、食堂で買った食事をクリアーの部屋に運び、みんなで朝食を食べる事になった。
雷は近くに落ちなくなったが、空がまだ時折光る事があるので、クリアーはフィックスの腕を離さないでいる。
「クリアー、俺食いづらいんだけど、一回離さない?」
「やだ!」
「もー」
(もーって言いながら嬉しそうだなフィックスさん……頼られるの好きだから)
そう思ったあと、コールは視線をロストに移した。嬉しそうなフィックスにイラついたロストは、手元にあった布巾をフィックスの顔目掛けて投げた。布巾は見事に、顔面に命中した。
「すまない、手が滑った」
「ロスト……!!」
(あからさまなヤキモチ……)
「俺も……」
「私もー★」
続けてスロウとリーフも、フィックスに布巾を投げた。
「俺で遊ぶなっ!!」
怒るフィックスを無視し、ロストは言った。
「クレア、そんな棒よりも私の方が良いぞ? 『千の力』もあるぞ?」
「棒ってなんだよ!!」
「棒男うるさい」
「お前もか!!」
ロストとリーフが、フィックスに棒という単語が入ったあだ名をつけるので、スロウも何かないかと考え、思いついたあだ名をつぶやいた。
「……棒人間」
「棒人間??」
「あはは★ ヒョロヒョロっぽい★」
リーフが大声で笑うので、フィックスは怒り、叫んだ。
「逆だろが!! 見ろ! この筋肉を!!」
「筋肉アピールきもー★」
「お前な!!」
度々フィックスとロスト達がケンカをしながらも、全員無事に食事を終えた。食後のお茶が飲みたいとリーフにせがまれたので、フィックスはしぶしぶ、お茶を淹れて出した。
「……15点」
「10点★」
「5点だな」
「……人に茶を淹れさせておいて……」
(フィックスさんが、完全にいじられキャラに……)
「ていうか、お前らって金どうやって稼いでんの? 働いてって感じには見えねえけど……」
そう言うフィックスに、ロストが答えた。
「賞金稼ぎをしている」
「ああ! 危険だけど、一度に大金が手に入るもんな! 『千の力』があるならそういうのもできるのか……お前らも??」
フィックスはリーフとスロウを見た。
「私はお金稼ぐ仕事は何もしてないわ★」
「えええ……」
引いているフィックスに対して、ロストが口を開いた。
「私がそれで良いと言った」
「お前が金出してんだろ?? 太っ腹かよ……」
(まあ、俺も今はブラックの面倒見てるけど……)
「買い出しとか、ちょっと家事は手伝うけどね★」
「俺は……昔の貯金で」
「金持ちかよ」
スロウは首を傾げ、フィックスを見た。
「棒人間は……お金ないの?」
「おい、ちょっと待て。お前そのあだ名、固定する気か??」
「ん?」
「ん? じゃねえよ……」
「貧乏……棒人間……」
「お前程じゃねえかもしんねえけど金あるしっ! てか棒人間言うな!」
口下手なスロウでも、遠慮のないフィックスには緊張せずに済んで、話しやすいようだった。そして、お茶を飲み終わったロストは、一度窓の外を見たあと、クリアーに言った。
「雷……治まって良かったな、クレア」
雨風は相変わらず強いが、もう空が光る事はなくなっていた。
「うん……あれ? そのブレスレット……」
シンプルな装飾が付いた革のブレスレットが、ロストの袖の間から見えていた。
「ん? これか?」
「見た事……あるような?」
「ああ、クレアの持ち物だったからな」
「え? ボクが自分のブレスレットをロストにあげたの??」
そう言われ、ロストは上を見ながら、しばし考えた。
「……………………そうだ」
「いや! 今、明らかに嘘ついただろ!?」
フィックスはすかさず、ロストに突っ込みを入れた。
「あげたわけじゃないの??」
「……クレアの部屋にあった」
「盗ったのか!?」
「盗ってはいない……私が使っていたら……」
ロストは当時の事を思い出しながら話した。
『あれ? ロスト? それ?』
ロストの手首には、クレアがいつも使っているブレスレットが付けてあった。
『ああ、クレアの身に着けている物を身に着けたくて……だめだったか?』
『良いよ! でも次からは一言教えてね! なくなったのかと思ってたから!』
クレアは気にする様子もなく、ロストに笑顔を返した。
「という事だ」
「えええ……」
「クレアは私のする事は、基本なんでも許してくれた。クレアのタオルが欲しい、小物入れが欲しい、と、色々もらっていた」
(こいつがこんななの……クリアーのせいも大きいんじゃ……??)
フィックスは引いた目でロストを見た。
「ちゃんと新しい物はプレゼントしていたが?」
「そういう問題じゃない!!」
(クリアーの私物、欲しがり過ぎ!)
「私が選んでプレゼントした物に囲まれていくクレア……私色に染まっていくようで嬉しかった……」
「おい、お前絶対策士だろ」
「…………」
ロストは一瞬目が泳いだが、策士かどうかについては、何も答えなかった。
(否定もしねえ……ある意味、正直者だな……)
「基本毎日私と居てくれたが、明るく優しく人気者だったクレアは、色んな奴によく呼ばれていて、会えない時間は寂しかったな……」
「基本毎日一緒に居たんだよな!? 寂しがり過ぎじゃね!?」
フィックスが呆れた顔をしている横で、クリアーは過去の自分と今の自分のギャップを感じていた。
(ボク、ロストと居た時は明るい人気者だったんだ……今と違い過ぎて……不思議)
「てか……本当に付き合ってたわけじゃないのか? 部屋に行くくらい仲良かったのに?」
それを聞いて、ロストは視線を落とし、小さな声で言った。
「……付き合う前に……クレアが亡くなった」
「亡くなった??」
ロストはクリアーを見つめ、目を潤ませた。
「あの時は亡くなったと思ったんだが、生きていたんだな……ちゃんと確認しておけば良かったと……後悔している……」
「ロスト……」
コールはロストを見ながら、はじめて会った時の事を思い出していた。
(オレの村に来た時に絶望した目をしていたのは、その前にクリアーが亡くなったと思ったからなのか……でもクリアーはなんで亡くなったと思われたんだ?? 過去に何が……)
「確認しておけば、こうやって離れる事もなかったのにな……すまない……クレア」
申し訳なさそうに言うロストを、クリアーはじっと見た。
「……ねえロスト、ボクの家族って……」
「クレアに家族はいない」
「え?」
「クレアも私も孤児だったからな、親兄弟はいない」
「孤児?」
「え!?」
思ってもいなかった事に、フィックスは思わず叫んだ。
「同じ境遇で共感できた事が、絆が深まった一番の理由だった」
「ボク……家族……いなかったんだ……」
瞬きもせず、呆然としているクリアーを見て、フィックスは心中を察した。
「クリアー……」
(こいつがなんか、家族を求めてたのは、カレンと三人で居た時に感じてたけど……あれは……そもそも家族がいなかったからなのか……)
「……おい、もっと詳しく説明してくれ」
フィックスはロストに強く言った。
「なんでお前に、クレアとの思い出を説明しなければならないんだ?」
「俺にっていうか、クリアーは五年前に記憶をなくした状態で、俺の村の近くの森で意識を失ってたのを、カレンっていう幼馴染が発見したんだ」
「ほう……」
「今も記憶は全く戻ってねえ。……お前がクリアーの知り合いなら、過去を話してくれたら、なんか思い出せるかもしれねえだろ?」
そう言われ、ロストはフィックスをじっと見た。
「良いのか?」
「?? 何が?」
「記憶が戻ったら、私の元に戻ってくるぞ?」
「え!?」
「元々私と居たのだから、当然だろう」
「……」
(そう……なるのか? でも、こいつとの関係は恋人じゃないにしろ、相当強いみたいだし、記憶が戻ったらこいつのとこに帰るって言われても、確かに不思議じゃねえ……)
「クレア」
ロストに名を呼ばれ、呆然としていたクリアーは、ビクッと体を動かした。
「聞きたいか?」
「……ボクは……」
(聞いたらボクは、コールやフィックスよりもロストと居たいって思うの? 全然想像つかない……なんか……怖い……)
今までの話を静かに聞いていたコールは、ロストを見ながら、クリアーとの事を考えていた。
(この人……変な性格だけど、クリアーの事はよくわかってる……今も……不安になるから、先に大丈夫か聞いてくれてる……父さんが亡くなった話をしても無関心だったのに、クリアーにだけは異常に執着してる……こんな人のところにクリアーを返して良いのか?)
難しい質問にすぐに答えられず、クリアーは困惑の表情を浮かべていた。そしてそのまま、一同は沈黙した。
「みんな黙っちゃった★」
(こんな人がクリアーと……)
コールは拳を強く握り、重い声を出した。
「すみません……」
「コール?」
「オレ、今めちゃくちゃ機嫌が悪いので、退席します」
「「機嫌が悪いの!?」」
((気分じゃなくて!?))
冷静そうなキャラが唐突におかしな事を言ったので、フィックスとスロウとリーフは、同時に突っ込んでしまった。
「コールがご立腹……」
真顔でコールは席を立ち、ドアの方へと向かった。
「コール!」
クリアーが引き留めるように名を呼ぶ。
「……クリアー……聞くか聞かないかは……自分で決めて」
「コー……ル……」
クリアーが名を呼んでも振り向きもせず、コールは部屋を出て行った。
(珍しいな、コールがこんな事するなんて……あんなふうに言われて、クリアーが聞けるわけないじゃん)
コールは速足で隣の自分の部屋に戻った。勢いよくドアを開けたせいで、近くに置いていた荷物に当たり、大きな音が出てしまった。
「あれ? コールくん??」
その音を聞いて、やっとブラックが目を覚ました。コールはその場に座り込み、手で顔を覆って、赤面した。
「こどもみたいな事した……」
「え??」
コールが、感情的な自分の行動を恥じていた時、クリアーの部屋に居るロストは、再び問いかけた。
「クレア、どうする?」
(ボクは……)
まるでクリアーの心境を表現するかのように、また雷が鳴りはじめた。
「うお!」
「また雷ー?」
「……フィックス」
クリアーは、今にも泣きそうな顔でフィックスを見た。目に溜まった涙が、今度は雷だけが原因ではない事を、フィックスはハッキリとわかっていた。
「クリアー……」
涙がこぼれる前に、クリアーはフィックスの腕に抱き着いた。
「ロスト……わりいけど、今日は帰ってくれるか?」
フィックスはクリアーの頭に手を置き、優しく撫でた。その様子を見ていたロストは、一瞬眉をひそめたが、クリアーを見つめ、ため息まじりに言った。
「……そうだな」
「お開きねー★」
「私は急いではいない、いつでもまた話そう」
「おう……」
ロストは席を立ち、部屋を出た。
(あーあ……やっとこれで……クレア様が……俺達の仲間になると……思ったのに……また先送りかー……まあ……いずれはこっちに……来てくれるんだろうけど……長いなあー……)
スロウは小さくため息をつき、立ち上がったが、急に腰に痛みを感じた。
「!! ……座りっぱなし……だったから…………腰が……痛い……」
眉間にシワを寄せて佇むスロウを見つめながら、横に座っていたリーフは言った。
「スロウってば、ホントおじいちゃんみたいねー★ 虚弱体質だし★」
「……雨の日は……特に……」
そんな光景を見て、フィックスは思った。
(個性強いな、あいつら……)
腰を抑えながら、リーフに手を引っ張られ、スロウもリーフと共に、部屋を出て行った。
「フィックス……ボク……怖いよ」
「クリアー」
「フィックスやカレンさんやコールよりも、ボクはロストを選んだりするの??」
「……俺にはわかんねえ……でも……ロストはコールと父親を……破壊した瓦礫に巻き込んで殺してる……元々知り合いじゃなかったみてえだから、殺すつもりでやったのかはわかんねえけど……そんな奴に…………俺はお前を……渡したくない」
強い目で見つめながら、フィックスはクリアーの手を握った。
「フィックス……」
「でも……コールの言うように……最終的に決めるのはお前だ」
「……」
「……不安がなくなるまで……俺が……ずっと一緒に居てやるよ」
「え……」
「だから……そんな顔すんな」
フィックスはクリアーの涙を、指で拭った。
「ありがとう……」
クリアーはフィックスに抱き着き、胸に顔をうずめ、涙を流した。
「……大丈夫だから……俺がお前の…………クリアーの側に居るから」
「うん……」
「まだ昼前だけど、今日は一回休め。寝るまで居るからな」
「ありがとう、フィックス……」
しばらくフィックスの胸で泣き、落ち着くと、クリアーはそのまま眠りについた。
「おやすみ……」
クリアーの頭を優しく撫で、起こさないように、静かにフィックスも部屋を出た。
その頃、ブラックはコールに一度起こされたが、再び眠気に襲われ、眠っていた。
「う……」
『ブラック……』
「父様……母様……」
『ブラック……!』
「フェード!!」
ブラックは、悪夢から飛び起きるようにして、目を覚ました。
「うわっ!」
「お……大丈夫かお前?」
突然叫びながら起き上がったブラックに、フィックスは驚いた。
「シャー……ロット……」
「シャーロット??」
「あ……ぼう……兄……ちゃん」
「すげえうなされてたぞ?」
「あ……うん……大丈……夫……」
ブラックは悪夢により、服がぐっしょりと濡れるほどの汗をかいていた。
「汗すげえな……」
フィックスはタオルを取って、ブラックに渡した。
「ほら」
「あり……がと……」
タオルで顔を拭き、ブラックはため息をついた。
「……昔なんかあったのか?」
「! ……」
「別に言わなくてもいいけどさ……」
「……ごめん……」
「おう」
ブラックは険しい顔で、もう一度言った。
「……ごめん」
「わかったって……」
「違う……最初に『白の村』に泥棒に入った時さ……」
「うん」
「その頃も悪夢に悩まされて……むしゃくしゃしてて……一回目は失敗したけど、リベンジの時には……だいぶ……ストレス溜まってて……」
フィックスは、ベッドに居るブラックの横に座った。
「うん」
「俺様……最後は岩を落として空き家壊して、その隙に泥棒しようとか思って……」
「派手な事したくなる時あるって言ってたけど……ストレスで?」
「……うん」
「どれだけストレス溜まっても、泥棒とか家破壊とかはダメだぞ」
「だよね……」
「……お前がなんでそんなになったか知らねえけどさ」
「……」
「一緒に居てお前の事見てて……お調子もんだけど、優しいし、あんま破壊とかするタイプじゃねえなって思ってたから気になってた」
「……」
「フェード……」
「!!」
「寝言で言ってたけど……」
その名を聞いて、ブラックは過呼吸を起こした。
「おい!」
「ハァ! ハァ! ハッ!」
「ゆっくり息しろ!」
「ハァ……ハァ……ハ……」
フィックスがブラックの背中をさすり続けると、段々と落ち着いてきた。
(こいつ……こんなふうになるほどの何かが、過去にあるのか……クリアーもコールもだけど……みんな……色々抱えてんだな……)
「……大丈夫だ」
「ハァ……ハァ……」
「ごめん……もう聞かねえから」
「ハァ……ハッ……」
ブラックは不安と苛立ちから、布団を強く握りしめた。
(くそ……)
「……言いたくなきゃ言わなくていい」
「……ごめ……ん」
「ただ」
「?」
「もし言いたくなったら聞いてやるから、いつでも言えよ」
そう言うフィックスを、ブラックは顔を上げ、見つめた。
「……棒……兄ちゃん」
「こうやって仲間になったのも、なんかの縁だし」
「……ありが……とう」
「ま、抜けるのも自由だけどな」
「うん…………誰かと居ると…………悪夢が減るんだ……」
「え」
「それで……昔も……女性と毎日一緒に」
「ああ……そういう事」
「女の子好きなのもあるけど」
「どっちだよ」
「はは……一緒に居てくれて、ありがと」
フィックスはその場で背伸びをし、再びブラックを見た。
「勝手に入ってきた時は、めっちゃ迷惑だったけどな」
「にゃはは☆」
やっといつもの笑顔が戻ったブラックに、フィックスはホッとした。
「落ち着いたなら飯にするか? お前ずっと寝てたもんな。嵐みたいに天気悪くて外出れねえから、食堂の飯だけど、なんか買ってきてやるよ」
「うん」
フィックスはブラックの肩を二、三回軽く叩いたあと、ベッドから立ち上がって、部屋の外に出た。
(俺は過去に、みんなみたいな酷い事とかねえし……両親も『学の街』で元気に生きてるし……だから……気持ちとか同じようにはわかんねえけど……だからこそ……俺はしっかりして、こいつらを支えてやらねえとな……)
特別な才能も力も、考え方もない。だからこそ、そういう人達を支え、護る事に、フィックスは使命を感じていたのだった。



『千の希望』人気エピソード