ショートストーリー 「ツンデレ」

【恋愛ファンタジー小説】『千の希望』ショートストーリー 「ツンデレ」[アイキャッチ]

 蛇の毒による影響も完全になくなり、体調が回復したフィックスは、ベッドの上で横になり、肘をついて書類を見ていた。ブラックは、そんなフィックスに近寄り、声をかけた。
「ねー、棒兄ちゃん」
「なんだよ」
「コールくん外出中だし、恋バナでもしよー☆」
「はあ? なんでだよ……」
 そう言うフィックスの言葉は無視し、ブラックは続けた。
「棒兄ちゃんってさー、クリアーちゃんにめっちゃツンデレじゃん」
「……」
「気になる女子にそんな態度で、どうやって彼女作ってたの?」
 フィックスは視線を、書類からブラックに移した。
「気になる女子って……」
(クリアーの事、好きなのやっと気づいたけど……こいつに言うのもなんだしな……) 少し考えたあと、フィックスは目をそらして言った。
「そういうのじゃねえよ」
「えー?」
 ブラックは半笑いで反応した。
(信じてない……)
 横になっていたフィックスは起き上がり、ブラックを見た。
「クリアーは、はじめ男だって言われて、男だと思って五年間接してたから、今更女扱いすると、変な感じすんだよ」
「それであんな反応?」
 ブラックは、フィックスの隣に座り、じっと見た。
「……なんか……恥ずかしいんだよ。女扱いすると」
「ふーん。彼女にもそんなだったの?」
「いや、そういうのがあって、クリアーにはなんか調子おかしくなるけど、俺は基本、好きな女にはめちゃくちゃ素直だぞ」
「そうなの?」
 フィックスは腕を組んで、過去を思い出しながら話した。
「まず、顔見て、好みだなーって思ったら、恋人いるか聞いて、いなかったらすぐ飯に誘う」
「おお」
「んで、その飯の最中の一番良い雰囲気の時に、好きだから付き合って、って言ったら、うん、で成立してた」
「にゃはは☆ めっちゃシンプル☆」
「お前も知ってると思うけど、クリアーは初対面の時に、付き合ってって言ったら、嫌だって言われて、はじめて断られた相手だな」
「そりゃいきなり言ったらね☆ なんも知らないのに☆」
 フィックスは上を見ながら、クリアーとはじめて会った時の気持ちを思い出していた。
「あん時は、好み過ぎて、テンション爆発したからな……」
(今はもっとじっくり攻めればよかったなって思う……そしたら男だって嘘もつかれなかっただろうし……)
 自分がおかしな行動をしたせいで、五年も関係が変だった事を、フィックスは後悔していた。
「クリアーちゃんはそもそも、今まで棒兄ちゃんが付き合った女性とは、タイプが違うんじゃない?」
「え?」
「一回ご飯行っただけで付き合うようなタイプじゃないでしょ」
「まあ、そうだな」
 ブラックはにっこり笑って、続けた。
「ああいう警戒心が強いタイプは、じっくりじっくり、じーっくりいかないとね☆」
「さすがモテ王……」
「棒兄ちゃんに好感はありそうだから、頑張って恋愛感情を持ってもらえれば、付き合えるんじゃない? 信頼関係は結構できてそうだしさ☆」
 そう言われてフィックスは、眉間にシワを寄せて、首をゆっくり傾げた。
「そ……う……だな……どうなんだ? ……わからん」
「まあでも、クリアーちゃんは、可愛いコールくんみたいのがタイプみたいだし、時間はかかりそうだよねー」
「……」
 眉間にシワを寄せたまま、フィックスは俯いた。ブラックはそんな相手を励ますように、肩を軽く叩いた。
「頑張ってね☆」
「! いや! 俺別にクリアーと付き合いたいとかじゃねえし!」
 赤面して慌てるフィックスの肩を、今度は数回、ブラックは叩いた。
「またまたー☆」
(…………毎回適当に茶化してんのかと思ってたけど、こいつ……俺がクリアーを好きって……気づいてる??)
 二人がそんな会話をしていると、ノックの音がした。
「フィックスー」
「うお!」
 ノックをしたのは、どうやらクリアーのようだ。
「噂をすればだね☆ はいはーい☆」
 ブラックはベッドから立ち上がり、ドアを開けた。
「どうぞどうぞ☆」
「ありがとう」
「俺様ちょっと散歩してくるねーん☆」
「いってらっしゃい、ブラック」
「クリアーちゃん、いってきまーす☆ 二人はごゆっくりねー☆」
 そう言って、ブラックは部屋を出て行った。
(……気を遣われた?? ブラックの野郎…………やるじゃねえか……)
 二人きりになれて、フィックスは内心喜んだ。ベッドの上で、書類を持っているフィックスを見たクリアーは、ゆっくりと相手に近づいた。
「管理表作ってるの?」
「おー……」
 買い物や仕事などの金銭やスケジュールの管理は、フィックスがみんなの分もまとめて行っていた。誰がいつどの仕事をするかなどを、紙に書いて、みんなで把握する事で、日々の連携をとりやすくしていたのだ。
「なんか用だったか?」
「ううん、今日する事なくて……」
「ゆっくりしてていいぞ」
「……うん」
 そう言ったあと、フィックスは再び書類に視線を移した。クリアーは横でしばらく無言で見ていたが、何を思ったのか、フィックスのベッドに乗った。
「おい……なんでベッドに乗る……」
「え? 今日眠くて……一人で居ると眠っちゃいそうだから……」
「いや……ベッドに来たら余計寝るだろ……そっちの椅子行け」
 フィックスは横にある椅子を指さしたが、クリアーは動かず、小さく返事をしただけだった。
「うん……」
(動かねえ……)
 クリアーは横になり、目を瞑った。
「おい……」
 そして、フィックスの方に転がった。
「お……お前……」
「フィックスって体温高いよね……」
「まあ……高い方だな……」
 ベッドの上でクリアーに密着され、フィックスの鼓動が高鳴る。
(落ち着け俺!!)
「あったかい……おっきい犬みたい……」
「人を犬にするな」
 フィックスは恥ずかしさのあまりクリアーを見る事ができず、書類から目を離せないフリをしていた。とても気にはなるが、見ないようにしていると、横から小さな寝息が聞こえてきた。
「おい! 寝るな!!」
「スー……」
「夜寝れなくなるぞ……ったく……」
 クリアーは寝てしまい、軽く寝返りを打った。急に動かれ、フィックスは驚いた。
「!!」
「んー……」
 寝ている時に、近くに居る相手を握るクセのあるクリアーは、フィックスの手を軽く握った。
(なんで手握ってくるんだよ! 嬉しいだろうが!!)
 手を握り、スヤスヤと寝ているクリアーに、フィックスの鼓動はさらに激しくなった。
(このままじゃ、俺の心臓がもたない……)
「おい、起きろクリアー」
 フィックスは、クリアーの頬を、指で触った。
「こいつ、こどもみたいな頬してるよな……」
 弾力のあるクリアーの頬を、フィックスは何度もつついてみた。
「んー……フィックスー……」
「俺の夢見てんのか? ん?」
 その時のフィックスは、まるで溶けそうなほどの、デレデレとした笑顔をしていた。ふと、開けたままだったドアの方に気配を感じたので視線を移すと、そこには、ブラックがじっとこちらを見ながら、静かに佇んでいた。
「ちょっ!! 今の見なかった事にして!!」
 赤面してうろたえるフィックスに対し、さっきのデレデレした顔を思い出し、ブラックは今にも吹き出しそうなほど、にやにやした。
「了解……ふ…………ぶふっ! ……あんな愛しそうに見てたら、いつか気づかれるよ☆」
「だから好きじゃねえって!!」
 真っ赤になって慌てふためくフィックスの姿に、もう何を言っても、ブラックは信じてくれなさそうだった。

 その夜、昼寝をしてしまったクリアーは案の定眠れず、ベッドから出てコール達の部屋に行き、フィックスを呼び出した。
「フィックス寝れない……話相手して」
「こどもかっっ!!」
 怒りながらも結局応じて、寝不足になるフィックスだった。

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