第十八話 「ブラックの出会い」

【恋愛ファンタジー小説】『千の希望』第十八話 「ブラックの出会い」[アイキャッチ]

 今日は朝から雨が降っており、コール達はそんな天気を見ながら、部屋で朝食を食べていた。
「仕事、雨天中止だったよな? 一日雨っぽいから、宿で過ごすか……」
 せっかく取ってきた仕事が中止になり、フィックスが残念そうにしているので、コールは励ますように、笑顔で言った。
「そうですね、また探しましょう」
「おう。……あ、クリアー」
 フィックスに呼ばれ、横に座っていたクリアーは、パンを食べる手を止め、顔を上げた。
「ん?」
「顔ついてる」
 そう言うとフィックスは、クリアーに手を伸ばし、頬についたパンくずを取った。
「あ、ありがとう」
 そしてそのまま、取ったパンくずを、フィックスは食べた。この流れを見ていたコールは、目を見開き、驚いてしまった。
「…………」
(え? この二人……付き合ってる??)
 あまりの距離の近さに、コールは混乱した。
(棒兄ちゃん攻めるねー☆ コールくんがビックリしてるけど、俺様はイイと思いまーす☆ 変に刺激しないように、今回は茶化すのはやめておこう☆)
 そう思いながらブラックは、何も見なかったような態度で食事を続けた。
「赤ん坊」
 フィックスにからかうように言われ、クリアーは真顔で返した。
「大人だよ」
 三人はいつも通り、何気ない会話をしながら朝食を食べ終わったが、コールは気になってしまい、いつもより食べ終わるのに時間がかかっていた。

 食事の片付けも終わり、自由時間になったので、クリアーは隣の部屋に戻ろうと廊下に出た。そしてそのあとを、コールが追った。
「クリアー」
「え? 何?」
 振り返ったクリアーをじっと見つめながら、コールは続ける。
「クリアーって……」
「?」
 少し間を空けたあと、コールは思い切って聞いてみた。
「フィックスさんの事……好きだったりする?」
「へ?」
 クリアーはコールの言葉に、きょとんとしている。
「仲間というか……男性的な意味で……」
「ええ!? ないよ!! なんで!?」
 コールの突然の質問に、クリアーは慌てふためいた。
「いや……なんか……仲良いよね??」
「仲は良いけど、そういうんじゃないよ! お兄ちゃんみたいな感じ!!」
「あー……」
(フィックスさんは、兄貴的な感じだからって言うけど、クリアーもそんな感じなんだ……オレが気にしすぎなのかなー……)
 コールはそう考えたあと、クリアーに優しく微笑んだ。
「そっか」
「そうだよ!!」
「……ホントに恋愛感情ってないの?」
 まだ疑っているコールに、クリアーはきっぱりと、大きな声で答えた。
「ないよっ!!」
 それを聞いて、コールは思った。
(ええー……ホントにすごく仲良いだけなのか……)
 クリアーはふと、コールの質問を不思議に感じた。
「……なんで?」
「え?」
 今度はコールが、きょとんとして、クリアーを見つめる。
「ボクとフィックスが……恋愛的かどうか、気になるの??」
「え!?」
 クリアーにそう問われ、コールは驚いた。
(確かに、なんでオレそんな事気になって……)
 気になる理由、そんな事は考えていなかったので、コールはしばし、それについて考えた。
「……もし付き合ってるとかだったら、オレ、邪魔な時……あるかなって……」
 少し寂しそうに言うコールに、クリアーは焦った。
「!! 仮に万が一……絶対ないけど! フィックスと付き合ってたとしても……」
 両手の拳を握り、クリアーは力いっぱい言った。
「コールが邪魔とか、絶っっっ対! ないからっ!!」
 相手の気迫に、コールは一瞬圧倒されたが、一呼吸したあと、安心したような声で続けた。
「……そっか!」
「そうだよ!」
 コールは両手を合わせ、申し訳なさそうにした。
「ごめん! 変な事聞いて!」
「ううん! 勘違いされたままだと困るし、気になったらいつでも聞いてね!」
 誤解が解けたクリアーは、安堵した表情を浮かべる。
「うん……じゃあオレ、部屋戻るから」
「うん!」
 クリアーと別れ、部屋に戻る途中、コールは自分の行動について考えていた。
(そっか……別に付き合っててもいいんだけど……二人は『はくの村』で五年も一緒に居たんだし、オレよりもずっと仲良いし……でも、なんか……二人が仲良くしてるとこ見ると、少しもやっとする時があるんだよな……なんだろ……)
「うーん?」
 もやっとする理由、それは考えてもわからなかったので、コールはこれ以上は考えない事にした。
 そしてこの現場の一部始終を、フィックスは覗き見ていた。
(あいつ……俺を全力で否定し過ぎじゃねえか!? ……まあ、家族的な感じにしてるから当然だけど……てかコールってやっぱクリアーの事……少し気になって…………あー! コールがクリアーを本気で好きになったら、クリアーが俺を好きになるかもなんて奇跡は……絶対起きなくなるじゃねえかー!)
 クリアーの気持ちが自分に向く事を少し期待しているフィックスは、二人の会話を聞いて、ネガティブな妄想をしてしまい、頭を押さえて悶えた。
 そんなフィックス達の様子を、さらにブラックが遠目から見ていた。
「みんな若いね! 青春だねー☆」
(俺様女性経験は多いけど、恋愛って過去一回しかないんだよねー……昔のシャーロットとの関係を……カウントしていいかどうかわかんないけど……まあ……あれが原因で……恋愛……お休み中なんだけど……いつか、そういう甘酸っぱいの、俺様もまたすんのかなー? なんて!)
 そうブラックが考えていた時、背中に、ドンッと何かがぶつかった。どうやら人だったようで、当たった拍子によろけて、座り込んでしまった。
「わ! ごめん、大丈夫!?」
 ブラックは相手に手を差し伸べた。
「す……すみません!!」
 そう言った相手の容姿は、胸まで伸びたウェーブのかかった荒れた黒髪で、毛量が多いのか、前髪から少し見える程度だが、ややつり目の綺麗な瞳の人物だった。年上であろうその女性は、ブラックを見上げて、固まっていた。
「うわ……超イケメン……」
「え?」
 女性は、ふと口に出してしまった自分の言葉に慌てた。
「!! いえ! あ、ありがとうございます……」
「いえいえ、ごめんね!」
 女性は差し出された手を握ると、照れた様子を見せた。ブラックがサッと引っ張って起こすと、相手はお辞儀をしてすぐに去ろうとした。だが、女性に対し、何か引っかかるものがあったので、ブラックは去って行く女性に、再び声をかけた。
「……ねえ!」
「え?」
 女性は呼ばれた事で振り返り、ブラックを見る。
「お姉さん、名前は??」
「え? ま……マリナ! ……です……」
「マリナ……」
 しばし見つめ合ったあと、マリナが続けた。
「あ……あなたは……?」
「俺様? んー………………ウェイクだよ」
「ウェイク……」
 ブラックは、足元に髪紐が落ちているのに気づき、拾った。
「これ、マリナの??」
「あー! そうだわ! すぐ来なさいって言われてたんだった!! それで髪結びながら急いでて!」
 どうやらどこかで働いている人らしく、慌ててぶつかってしまったようだった。
「にゃはは☆ はい☆」
「あ……ありがとう」
 マリナが髪紐を受け取った時、ふいに少し手が触れてしまった。
(あ……イケメンと……また手が触れた……)
 マリナはそう思ったあと、俯いて、赤面した。
(反応がかわいい☆)
 ウブなマリナの反応に、ブラックは可愛さを感じていた。
「す、すみません! 急ぐので失礼します!」
「あ、呼び止めてごめんね!」
「いえ!」
 髪を後ろでひとつに結びながら、急ぎ足でマリナは廊下を歩いた。そんな去って行く姿を、ブラックは無言で見つめていた。
(本名言っちゃった……なんで?? てかマリナ、手がすごく荒れてた……髪もボロボロだったし……きっと忙しくて、手入れとかできないくらいの働き者なんだなー……ああいう一生懸命な人……良いな!)
 あだ名であるブラックという名前よりも、本名を名乗ってしまった理由は、この時のブラックにはまだ、わからなかった。
 マリナも気になったのか、角を曲がる前に、一度振り返った。
「!」
 すると、ブラックが自分を見続けている事に気づき、驚いた顔をした。そんな相手にブラックは、笑顔で手を振る。マリナはお辞儀を返し、廊下の角を曲がって去って行った。
「ふふ、かわい☆」
 そうブラックがつぶやいたあと、ガンッ! という音と共に、女性の高く短い叫び声が聞こえた。
「ん?」
(今度はなんだ??)
 そう思いながら近くの通路を見ると、ロストの仲間のリーフが、床板に足を取られ、座り込んでいた。
「いったーい!! ここ床板割れてるじゃない!! 足も軽く捻っちゃったし……もー!!」
 ロスト達はクリアーと同じ宿に泊って、偶然遭遇する、という事をしていたが、何度も同じ宿に泊まると怪しまれるので、今回はリーフだけ、隠れて泊まっていたのだった。
 そんな事は知らないブラックは、心配してリーフに近づく。
「大丈夫?」
「え?」
 座り込んでいるリーフは、声をかけられ、ブラックを見上げた。
(こいつ……コール達と一緒に居る奴よね? 遠目には見た事あるけど、いつもなぜか会わなかったものね……)
 リーフはそう思いながら、しばらく相手を見つめた。ブラックはというと、ロスト達の事については、フィックスとコールがたまに話しているのは聞いていたが、容姿に対しては一切知らない為、リーフの事も誰かわからず、そのまま会話を続けた。
「足痛めた?」
「うん……」
 座り込んでいるリーフを助ける為、ブラックはサッと、相手をお姫様抱っこした。
「きゃっ!!」
「部屋に医療用具あるから、連れてっていい?」
「え……あ……はい……」
(こ……こいつ……優しいのね……てか、近くで見ると……まつ毛長! 肌、綺麗! バラの良い匂いするっ!! ……遠目でもイケメンなのはわかってたけど、うちのスロウとロスト様と、いい勝負できるんじゃないの……って! このまま部屋に連れてかれたら、コール達に会っちゃうじゃない!!)
 焦るリーフの心境を知らないブラックは、すたすたと歩き、部屋にリーフを連れていく。そして、部屋のドアを開けた。しかし、中には誰も居なかった。
「……あれ? 他の人は??」
 リーフはきょとんとして、部屋の中を見回した。
「え? 他に仲間いるの言ったっけ??」
 余裕のなかったリーフは、はじめて会ったブラックに対して、仲間がいる事について、知らないフリをするのを忘れていた。
「え!? あ、えっと! 仲間いそうな顔してるから!」
「にゃはは☆ うん! いるよ!」
 そう言って、ブラックはにこにこした。
(笑うと可愛いわね……)
 笑顔になると八重歯が見えるブラックの無邪気な表情は、リーフには可愛く映ったようだった。
 ブラックは部屋に入ると、リーフを自分のベッドに降ろした。
「ちょっと待っててね☆」
「うん……」
 開けたドアは閉めずにいるブラックを見て、リーフは思った。
(密室にならないように、ドアは開けっ放しにしてくれるのね……結構紳士じゃない)
 だが、ブラックは過去に、付き合っていない女性と、夜を共にする生活をしていたという事を、リーフは知らなかった。
 ブラックは医療用具を用意し、屈んでリーフの足の処置をする。
「はい! これで大丈夫かな☆」
「ありがとう……」
 リーフにそう言われ、軽く笑顔を返し、医療用具を片付けながら、ブラックは続けた。
「キミはどこの人?」
「え! あ、私、旅人で……仲間が他の宿に居るわ」
「そっかー☆」
 その時、フィックスの声が廊下から聞こえてきた。
「おい、ブラックー」
(棒男!? 戻ってきた! まずい! バレるっ!!)
 危険を察知したリーフは、ベッドの布団に包まった。
「え?」
 ブラックが急にベッドに隠れたリーフを見ていると、開いているドアからフィックスが顔を出した。
「お前のバンダナ紛れてた」
 洗濯に行っていたフィックスは、タオルの中に紛れていた、ブラックのバンダナを差し出した。
「あら☆ ごめんね☆」
 笑顔のブラックを見たあと、明らかに人一人分の膨らみのあるベッドの布団に、フィックスは視線を移した。しかも、リーフの足が、少し出てしまっている。
(ベッドに誰か居る??)
 足の形から、女性だとわかったフィックスは、ブラックを驚いた顔で見つめた。
「……女……連れ込んだ??」
(ヤバい! 言われる!!)
 リーフは絶体絶命のピンチだと思ったが、ブラックは笑顔でフィックスに答えた。
「たまにはイイじゃん☆」
「お前……」
「まーまー☆ 俺様も男の子なんで☆ しばらくどっかで時間潰しててくれる?」
 そのお願いに、フィックスは困った顔をした。
「えー……今、コールとタオル洗濯してて、終わるのはまだ時間かかるけど…………あんま変な事するなよ……」
「しないしない☆ お話してるだけよ☆ 今は疲れてちょっと寝てるだけね☆」
「どれだけしゃべってんだよ……わかったよ……ゆっくり洗濯しとく」
 そう言ってフィックスが去ると、リーフはもぞもぞと、布団から出た。
「なんで……?」
 絶対に見つかると思ったのに、黙っててくれたブラックを、リーフは不思議そうに見つめた。
「隠れたから、見つかりたくないのかと思って☆」
 笑顔で答えるブラックを、リーフはさらにじっと見つめた。
(何よこいつ……ホントに……良い奴なのね……)
 医療用具を片付け終わったブラックは、ベッドの横の椅子に座り、続けた。
「訳ありの旅人も多いからね☆」
「……そうね……あの……何かお礼したいんだけど……」
「え?」
「足の……」
 照れくさそうに言うリーフに、ブラックは即答した。
「ああ! 別にいいよ!」
「でも……」
 お礼をしたがっているリーフを無下にしたくないと思ったブラックは、何かないか考えた。
「んー……あ! じゃあさ! 恋愛した事ある?」
「恋愛??」
 ブラックは、手を頭の後ろで組んで続けた。
「そ! 俺様恋愛ほとんどした事なくてね!」
「そんなイケメンなのに!?」
 ブラックの言葉に、リーフは驚いた。
「モテはするけど、俺様が相手をなかなか好きにならなくてさー」
「何それ……私は今好きな人がいて……その人と一緒に旅をしてるわ」
 リーフはロストの顔を想像した。
「へー! 幸せ?」
「……そうね……でも、その人は、他に好きな人がいるから……一緒に居られるのは嬉しいけど……辛い時もあるわ」
 視線を下に向け話すリーフを、ブラックは見つめた。
「そうなんだ……諦めないの?」
「一度好きになっちゃったら、どうやって諦めたらいいか、わかんないもん!」
「……」
 リーフは俯いて、寂しそうに言った。
「離れたくもないし……」
「……キミ、可愛いね!」
「え!?」
 イケメンに可愛いと言われ、リーフは驚き、顔を上げて赤面した。
「俺様もそんなふうに、相手を想えるようになりたいな☆」
「……なれるんじゃない? モテるんだし……」
「なれるかなー……人を好きになるって……恋愛じゃなくても男女問わず……怖い時……あるからね……」
 ブラックはそう話しながら、フェードを思い出していた。今までと少し違う雰囲気を出すブラックに、リーフは不思議に思った。
(何か過去にあったのかしら??)
「考えて好きになれるもんじゃないから、今は考えなくていいんじゃないかしら?」
 ブラックの性格も過去も知らないリーフは、素直な感想を伝えた。
「そっか、そうだね☆ ありがと☆」
 そう言うと、ブラックはリーフに、熱い眼差しを向けた。
(いつか俺様も……また恋愛……できるかな……)
 フィックスの影響で、ブラックは少しずつ恋愛に前向きになってきており、期待を込めた思いが、胸に湧き上がってきていた。
(ちょっと何よ……そんな熱っぽい目で見られたら……好きでもないのに好きみたいな……変な気持ちに……なるじゃないの……)
 リーフは見つめられ、そう感じていたが、この時のブラックに他意はなかった。
「役に立ったから、今の話をお礼として受け取っとくよ☆」
 ブラックは嬉しそうに、無邪気に笑った。
(何よそれ……カッコいいじゃない!!)
 にこにこしているブラックに、リーフは見惚れてしまった。
(は! 私にはロスト様がいるのに! 何考えて!! イケメンに見つめられて落ちかけるとか……私のばかっ!!)
 リーフはそう思ったが、このまま帰るのもなんだかもったいない気がしたので、少し考えて続けた。
「……も……もうひとつくらい……なんか聞いてもいいわよ」
「もうひとつ……」
 そう言われ、ブラックは上を見て、考えてみた。
「なければ……別にいいけど……」
 ちょっと話し過ぎてるかなと思ったリーフは、ブラックが迷惑してるかと思い、そわそわした。
「……じゃあさ……超ーーー金持ちの男が現れて、そいつと仲良くなったら、どうする?」
「え?……そんなの、めちゃくちゃ奢ってもらう」
 ブラックはその答えに、少しガッカリし、俯いた。
「ですよねー……」
 しかしリーフは、すぐに次の言葉を続けた。
「ただの仲良い相手ならね」
「え?」
 俯いていたブラックは、顔を上げ、リーフを見た。
「もしその男が、仲間になったり、好きな人とか、友達になったら、そんな事はしないけど」
「!! ……そう……なんだ……」
「仲良いだけの奴と、仲間って違うじゃない」
 そう言われ、ブラックは嬉しそうな声を出した。
「……そうだね!」
 リーフは腕を組んで、話を続ける。
「相手が奢りたいって言うなら別だけど、仲間や友達に、こっちから買って買ってーはしないわね」
(ロスト様も私の生活費は出すって、あっちから言ってくれたから、お金持ちだけど、問題ないと思うし……あ! でも私、スロウにはよく買って買ってーって言って、買ってもらってるわ……ま、スロウだからいっか)
 リーフはそう考えながら、あいつは別だ、と思った。
「うん!!」
 そう返事をする、とても嬉しそうなブラックの表情を見て、リーフは不思議に思った。
「変な質問……なんかの心理ゲーム??」
 リーフは首を傾げて相手を見る。
「うん……心理ゲームなのかもね」
「?」
「それで……キミが良い子だってのはわかった」
 ブラックは、とても優しい笑顔をリーフに見せた。
「!!」
(ヤバい……これ以上一緒に居ると……落とされそうっ!!)
「じゃ……じゃあ私もう行くわ、ありがとう」
 リーフは高鳴る鼓動を抑えながら靴を履き、ベッドから立ち上がった。
「うん☆ 気をつけてね☆」
 ブラックに笑顔で見送られ、去る途中、リーフは思った。
(あんなイケメンでモテる奴好きになったら大変そうね……まあ、ロスト様好きなのも大変な事多いけど……特にこの尾行とか……はぁ……今回はホントに大変だったわー……)
 その頃、感の良いロストは、くしゃみをしていた。
「風邪……ですか?」
 スロウが体調を心配して、ロストを見る。
「いや……」
 ロストは、さては誰かが自分の事を悪く言ったな、と思った。

 その夜、ブラックは、就寝の準備をしながら、今日の振り返りをしていた。
(ふー、なんか今日は女運が強い日だったな……マリナに……もう一人は名前聞き忘れたけど……恋愛の事考えてる時に出会うなんて、将来どっちかと結婚しちゃったりして! なわけないか☆ …………もう……会う事もないかな)
 ブラックがベッドを整えながらそう考えていると、フィックスがランプを置いているテーブルに近づいた。
「二人とも、もう明かり消していいかー?」
 そう言われ、コールはフィックスを見て答えた。
「はい」
 しかし、ブラックは答えず、考え事をしながらフィックスをじっと見ていた。
(棒兄ちゃん、クリアーちゃんの事好きなんだろうけど、俺様にはなかなか言ってくんないし、そろそろちゃんと聞いとこうかなー……じゃないと協力しにくいしね)
 無言で見つめてくるブラックに、フィックスは眉をひそめた。
「お前……なんか企んでね?」
「そんな事ないよー☆」
「怪しいな……」
「なんでもないって☆ 明かり消していいよー☆ おやすみー☆」
 妙な態度のブラックが気になったが、もういいやと思い、フィックスはランプのロウソクを消した。すぐに部屋が真っ暗になり、ブラックは自分のベッドに入った。すると、ふわりとリンゴの甘い香りがした。
(あ、良い香りする、あの子の香りかな? 包まってたもんね。アップル系の香水か……この香りは……結構好きかも……そういえばシャーロットも、良い香りしてたなあ……元気かな……シャーロット……)
 昔の楽しかった思い出を懐かしみながら、ブラックは眠りについた。マリナとリーフとの出会いにより、ブラックが再び恋愛の熱を灯す事になるとは、この時はまだ誰も、知る由もなかった。