ショートストーリー 「温かい気持ち」

【恋愛ファンタジー小説】『千の希望』ショートストーリー 「温かい気持ち」[アイキャッチ]

 晴天の中、クリアーとコールは街を歩いていた。
 コールは週に六日程度仕事を入れるので、基本はフィックスかクリアーが買い出しを行っているが、今日は珍しく、一緒に行く事になったのだった。
(コールと買い出し、嬉しい!)
 そう考えながら、にっこにこの笑顔で歩いているクリアーを、コールは見つめた。
「クリアー、もうほとんど道に迷わなくなったね」
 そう言われ、クリアーは嬉しそうに答える。
「うん! フィックスにも言われたよ!」
「道覚えるの、頑張ったんだね」
 コールのその言葉に、クリアーはとても喜んだ。
「えへへ!」
 日雇い労働をたまにするようになったクリアーだが、その事を、コールは気になっていた。
「仕事入ってる時もあるけど、どう? 困ってない?」
 コールの質問に、クリアーは笑顔で返す。
「相変わらず最初は緊張するけど、わからない時は聞けるようになったし、荷物運びの仕事ばっかりだから、大丈夫だよ!」
「そっか! 何かあったら、オレかフィックスさんに、すぐ相談してね」
「うん!」
(へへへ! コール優しい!)
 そう思いながら、クリアーがまた満面の笑みで買い出しを続けていると、前方で、恋人同士が何やらケンカをしているのが見えた。
「何よ! 他の子にデレデレしちゃって!」
 女性が相手に向かって叫ぶと、男性は手を払うようにして否定した。
「してないだろ!」
「嘘! してた!!」
「してないって!」
 男性の主張を全く信じる様子もなく、女性は怒りながら再び叫ぶ。
「もう知らない! ふん!!」
 そう言うと、女性はさっさと歩きだした。
「あ! 待てよ!」
 男性は女性を追いかけ、目の前から去って行った。
「ケンカしちゃった……」
 クリアーがそうつぶやくと、コールは寂しそうに答えた。
「仲直り、できるといいね」
「うん……」
(そういえばコールって……ヤキモチ……焼くのかな!?)
 クリアーは最近、フィックスとブラックの関係に妬いていた事で、ヤキモチに敏感になっていた。
「コールってさ……や……ヤキモチ焼いたりって……する?」
 もじもじと、照れながら聞くクリアーに、コールは不思議そうに返す。
「え? ヤキモチかー……どうかな?」
 上を見ながら考えているコールに、クリアーは思う。
(妬かない……感じ?)
 しばらくして、視線をクリアーに移し、コールは言った。
「こどもの頃は、友達が誰かと仲良くしてたら、ヤキモチ焼く事はあったけど、今はないかな」
「そっか……」
 コールはさっき見たのは恋人同士だったのを思い出して、さらに続けた。
「女性に対しては、好きになった事がないから、わからないね」
「そ、そうだね!」
 少し動揺するクリアーを見つめながら、今度はコールが質問をする。
「クリアーは? ヤキモチ」
「…………え!?」
 まさか同じ質問を返されるとは思っていなかったクリアーは、目を泳がせた。
「えっと……ボクは結構……ヤキモチ焼きかも……。最近フィックスとブラックが仲良いのを、ちょっと妬いてたんだ……」
 本当はちょっとどころではなかったが、クリアーは控えめに伝えた。
「……フィックスさんに……へー……」
 何か勘違いしてそうなコールに、クリアーは激しく焦る。
「!! 別にフィックスを異性として好きだからとかじゃないよ!? 保護者! ……お兄ちゃんとして!! 兄妹愛だからね!!」
「そうなの??」
「そうだよ!! 前も言ったでしょ!!」
 フィックスへの気持ちについては、何度も否定されているので、コールはクリアーの言葉を信じ、納得した。
「そっか。……そういえば、オレは怒りは出ないけど、寂しくなる事はあったかなあ……」
 そう言うコールに、クリアーはきょとんとした。
「寂しく??」
「うん。仲良いのが、羨ましいって気持ちでね」
 少し悲し気な表情のコールに、クリアーは大きな声で叫んだ。
「ボクが居るよ!!」
「え?」
「フィックスも、ブラックも居るし! だから、寂しくないよ!!」
 真剣な顔で励ましてくるクリアーに、コールはとても嬉しくなった。
「あはは! ありがとう、クリアー」
 優しい笑顔を見せるコールに、クリアーはホッとする。
(良かった……でも、コールって自立した、誰にも頼らない人だと思ってたけど、実は寂しがり屋さんだったのかな?)
 クリアーがそう思っている時、コールも今の事について考えていた。
(クリアーってヤキモチ焼きなんだ……こどもみたいで、かわいいな……)
 お互いのまだ知らない部分を知り、二人の距離は、少し縮まったのだった。
 
 買い出しを終え、宿への帰り道を歩いていると、路上販売で美味しそうなお菓子を売っている店があった。
「あ! あれ美味しそう」
 クリアーは焼きたてのパイを指さした。甘く香ばしい匂いが、離れている場所からでも、食欲をそそってくる。
「ひとつが結構大きいね。夕食入らなくなるといけないから、一個買って、半分ずつ食べようか」
 コールの提案に、クリアーは嬉しそうに、大きな声で返事をする。
「うん!」
 日頃の買い出しのお礼として、コールがパイを買ってくれたので、クリアーは自分が分けるのを担当しようと考えた。
「ボクがちぎるよ!」
「うん。じゃあ、お願い」
 近くにあった手洗い場で、二人で手を洗ったあと、パイを受け取り、クリアーはそれを半分にちぎった。しかし、大きいものと小さいものに分かれてしまう。
「あ……コール、はい!」
 クリアーは、コールに大きくちぎれたパイを渡した。
「……ありがとう」
(クリアー甘いもの好きなのに、大きいのくれた)
 コールはそう思いながら、クリアーの優しさに、笑みがこぼれる。
「いただきまーす」
 クリアーがそう言うと、コールはもらった大きめのパイを、さらに少しちぎった。
「クリアー、こっち向いて」
「え?」
 振り向いたクリアーの口に、コールはちぎったパイをゆっくりと入れた。
「むぐっ」
「美味しい?」
 笑顔のコールに、クリアーは恥ずかしそうに答える。
「う……うん」
(大きめあげたのに……ちゃんと半分こ……されちゃった……)
 そう考えながら、クリアーはにこにこしているコールを見つめた。そして、二人で同じ事を思う。
((優しいなあ))
 楽しい一日を過ごし、互いの優しさにも触れ、コールとクリアーは、とても温かい気持ちに包まれていた。

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