第二十八話 「気づかれた想い」

【恋愛ファンタジー小説】『千の希望』第二十八話 「気づかれた想い」[アイキャッチ]

 リーフに誘われ、ロスト達の仲間になる事を決めたブラックは、その話を朝食時に、楽しそうにみんなに伝えた。
「ってなわけで☆ 俺様ロスト様の方にいくから☆」
 急な話に、フィックスが驚き叫ぶ。
「は!? 敵になるって事か!?」
 ブラックは、チッチッチという軽い舌打ちと共に、指を左右にリズミカルに三回動かしてから答えた。
「俺様、別に敵とか味方とかないよ☆ 面白そうな方にいくだけだよ☆」
 にこにこと笑顔で言うブラックに、フィックスは眉間にシワを寄せて続ける。
「いやでも……お前への借りはどうするんだよ……」
 ブラックがコール達の仲間になったのは、森で熊に襲われた時に、絶体絶命のピンチを救ってもらったからだったが、その借りはまだ返していなかった。
「もう二度と会わないとかじゃないんだし、生きてる間に返してくれればいいよ☆」
 その言葉に、フィックスは再び叫んだ。
「自由過ぎるっ!!」
「にゃはは☆」
 ブラックは朝食を食べ終わると、荷造りをし、みんなに挨拶をする。
「じゃあ、今までありがとねー☆ まあ、またすぐ会うと思うけど☆」
 笑顔で挨拶するブラックに、クリアーは近寄った。
「ブラック……あの……」
 心配そうにするクリアーを、ブラックは抱きしめた。
「え!?」
 驚き固まるクリアーに、ブラックは優しく言う。
「大丈夫だよクリアーちゃん……ちょっと離れるだけだからね。超ーーー寂しいと思うけど、俺様達の絆は変わらないからね☆」
 どさくさ紛れにクリアーを抱きしめるブラックに、フィックスが大きな足音を立てながら近づき、怒鳴った。
「おい!! 離れろ!!」
 二人を引き剥がし、フィックスは相手を睨む。
「別れのハグよ☆ 次、コールくんね☆」
「え?」
 ブラックはそう言うと、コールを優しく抱きしめた。
「今までありがとー☆」
「あ……いえ。……お気をつけて……」
 なんと言えばいいかわからず、コールはぎこちない挨拶を返した。ブラックはぽんぽんと軽く相手の背中を叩き、ゆっくりと離れると、フィックスの方を見た。
「はーい、次は棒兄ちゃん☆」
 両手を広げ、ブラックはフィックスに近づこうとした。
「誰がするかっ!!」
 しかし、怒りながら拒否されたので、ブラックはしぶしぶ諦める。
「もー、照れ屋さん☆ じゃあ、そろそろ行くね! じゃねー☆」
 みんなに手を振り、ブラックは部屋を出て行った。
「……なんなんだあいつは……全く」
 ため息交じりにフィックスがつぶやくと、コールがそれに答える。
「ブラックさんって、そんなに根が悪い人ではないですよね。ロストは……あんな性格なのに、一緒に居て大丈夫なのかな……」
 心配するコールに、フィックスは声を荒げた。
「あんな奴の心配なんていらねえよ!」
 そんな様子を見たクリアーは思う。
(フィックス怒ってる……ブラックと居て楽しそうだったから、抜けられて寂しいんだろうな……)
 朝食時にブラックが座っていた椅子を見つめ、フィックスは当たるように叫んだ。
「なんかあっても知らねえからなっ!」
 そしてクリアーは再び思う。
(フィックスが一番心配してるよ……)
 クリアーがフィックスを心配し見つめていると、財布と肩掛けのカバンを用意して、相手が近づいてきた。
「クリアー! 買い出し行くぞ!!」
「は、はい!」
 落ち込んでいても家事は待ってくれない為、二人はそのまま買い出しに向かった。

 無言のまま、フィックスとクリアーが買い出しを続けていると、会計時に、パン屋の店員から声をかけられた。
「あら、彼女さん美人だし、彼氏さんも背高くて素敵ね!」
 そう言われ、フィックスは赤面し、慌てた。
「な! 違うから! 旅の仲間だから!」
「あら、そうなのー? お似合いなのに」
「お似合い……」
 フィックスはそうつぶやいたあと、さらに赤面し、慌てるように店を出た。そんなフィックスの様子を、クリアーはじっと見ていた。
「……」
「なんだよ……」
 目が合うと、クリアーは目をそらし、口を尖らせて答える。
「そんなにボクと恋人に見えるの、嫌なのかなって思って……」
「え?」
「フィックスああいう時、いつもすごく否定するし……」
 不機嫌そうなクリアーに、フィックスは少し照れながら返す。
「だって違うし……」
「普通に違うって言えばいいのに、慌てるっていうか……」
 クリアーのその言葉に、フィックスは思った。
(気持ちバレないか、ひやひやしてるんだよ……)
 頭をガシガシとかき、フィックスは続ける。
「兄妹みたいな関係で恋人と思われると……気持ち悪いだろ」
 フィックスのその発言に、クリアーは激しい衝撃を受けた。
(気持ち悪いっ!?)
 その場に固まるクリアーに、フィックスは不思議に思う。
(なんか変な顔で固まってる……)
 クリアーは拳を握り、わなわなと震わせ、叫んだ。
「気持ち悪くて……ごめんね!!」
 急に走り出し、クリアーはその場から去ってしまった。
「おい! クリアー!! もー……なんで怒ったんだよ……」
 仕方がないので、フィックスは残りの買い出しを一人で行った。

 クリアーは宿の裏にある花壇の近くに、癒しを求めて座っていた。
(気持ち悪いって……別にホントは恋人じゃないんだから……気にしなくていいのに……フィックスにとっては間違われるの……気持ち悪いんだ……)
 気持ち悪いなんて言葉を言われたのがはじめてで、クリアーはひどく落ち込んでいた。
「あら、お仲間のお兄ちゃんはどうしたんだい? 二人で買い物行ってたのに」
 花に水をやりに来た宿屋の店員の女が、クリアーの様子が気になり、声をかけてきた。
「……ちょっと……ケンカして……置いてきちゃったの……」
 花を触りながら、そう答えるクリアーに、女は笑みを見せる。
「あらら、ケンカできるなんて、仲良いんだね!」
 女がそう言うと、クリアーは花壇の前から少し離れ、水やりをする姿を見つめた。
「うーん、ボクはそう思ってるんだけど……ボクと恋人に間違われて、そんなの気持ち悪いって言われちゃった……」
 クリアーのその言葉に、女は急に笑い出した。
「あはは!」
「な! 笑い事じゃ……」
 女は人差し指をクリアーに向け、自信満々に言った。
「そんなの照れ隠しでしょ」
「え?」
「あの子どう見ても、あんたの事好きじゃない」
 その発言に、クリアーは首を傾げる。 
「……?」
「女の子として好きなんでしょ」
 ハッキリと言われ、やっと意味がわかったクリアーは、赤面し、声を荒げた。
「ええ!? 違うよ! フィックスはボクを妹みたいに思ってるって!」
「そんなの、なんか言えない理由があって、そう言ってるだけなんじゃないの? いつもあんなに熱い視線を送られてて、あんたもよく気がつかないもんだねー」
 女はニヤニヤと笑い、クリアーを見つめた。
「え……?? フィックスが……ボクを……女の子として……好き??」
 その事が気になったクリアーは、しばらくその話を女とした。
「ふふふ! これでわかったかしら? じゃあ、私はそろそろ宿に戻るわね!」
「うん! 教えてくれてありがとう!」
 水やりを終えて女が去ったあとも、クリアーはしばし考え、その場に佇んでいた。
 
 一時間後、買い出しを終えたフィックスは、宿に戻ってきた。
(あー、もう、クリアーどうしよう……怒らせた……でも他になんて言えば……あんまり肯定すると嬉しいのバレバレだし……否定し過ぎたのも……良くなかったかー……)
 そう考えていると、つい口から、不満の声が漏れだしてしまった。
「もー……」
「どうしたんですか? やっぱりブラックさんの事……」
 コールが、フィックスを心配して近づく。
「え? あ、いや、ブラックじゃなくて……またクリアーとケンカしちまってさ」
「何でケンカしたんですか?」
「え!? えっと……」
 恋愛要素のある内容なので、コールには言いにくいなとフィックスが思っていると、ドアをノックする音が聞こえた。
「はい」
 フィックスが返事をすると、聞きなれた声が返ってきた。
「フィックス」
「クリアー……」
 ドアを開けようとフィックスが向かうが、クリアーはそのまま言葉を続ける。
「ちょっと、ボクの部屋に来て……」
「え? お、おう……」
(俺……怒られんのか……?)
 フィックスはそう思ったが、行かないわけにはいかないので、腹をくくった。
「じゃ……ちょっと行ってくるわ……」
 重い声で伝えてくるフィックスを、コールは見つめる。
「フィックスさん」
「ん?」
 コールは近づいて、クリアーに聞こえないように耳打ちした。
「何かしちゃったんなら、早めに謝った方がいいですよ」
「そ……そうだな……」
 つぶやくように答えたあと、フィックスはゆっくりと、部屋を出た。

 クリアーの部屋に入ると、先に戻った相手が、無言で佇んでいた。
(わざわざ呼び出されると……なんか怖い……)
 フィックスがそう思っていると、佇んでいたクリアーが、口を開く。
「フィックス……」
「お?」
 クリアーはドアに向かって歩き出し、閉めてそのまま続ける。
「フィックスって……ボクの事好きなの?」
 ドアの方を向いたまま、背を向けているクリアーを見つめながら、フィックスはよくわからない質問の意味を考えた。
「……? ……ああ、良い仲間だと思ってるよ」
 フィックスのその言葉に、クリアーは振り返って叫んだ。
「違う! 女の子として好きなの!?」
「!?」
(何!? この恋愛鈍感マスターのクリアーが……俺の気持ちに気づいた……だと!?)
 そう思っているフィックスを、クリアーは赤面しながら凝視している。
(いや、でも……今まであれだけ気づかなかったのに……)
 フィックスはおかしいと思い、可能性の高いものを言ってみた。
「誰かになんか言われた??」
「……宿の人に」
 クリアーのその発言に、フィックスはホッとした。
(なんだよ……入れ知恵されただけか……)
「あー、気にすんな。そんなのは……」
 そう話すフィックスを遮るように、クリアーは叫ぶ。
「フィックスは気にしたじゃない!」
「え?」
「気持ち悪いって!!」
 目を潤ませ、頬を少し膨らませ怒るクリアーに、フィックスはなだめるように返した。
「ああ、いや……悪かったよ……言い過ぎた……ごめん」
「でも、そう思ってるんでしょ!?」
 全く怒りが収まらないクリアーに、フィックスは焦る。
(めっちゃ怒ってるんだけど……どうしよ……)
 怒りを収める方法をしばらく考え、フィックスは近くの椅子を指さした。
「クリアー、そこ座って」
 頬を膨らませたまま、クリアーが椅子に座ると、その前に、フィックスは跪いた。
「ごめん、変な事言って……茶化されるとさ、恥ずかしいっていうか……それで、気持ち悪いとか言っただけで、ホントにそうは思ってねえよ……」
「……恥ずかしいって、なんで?」
 そう質問され、フィックスは一瞬、ビクッと体を動かした。
(なんて言えば!? 好きだからとか言えねえけど!?)
 床を見つめたまま、目を見開いて動かないフィックスに、クリアーは続ける。
「ボクの事……女の子として好きだから?」
 固まったまま、視線だけをクリアーに移し、フィックスは思う。
(なんで今日はそんな的を射てくるんだよ!! いつもは逆だろっ!!)
 感情的になったら負ける。フィックスは瞬時にそう感じた。
「お前は……変な事、気にしなくていい……」
 動揺しながらも、目を見つめながら言ってくるフィックスに、クリアーは答えた。
「……わかった……」
 しかし、そう答えながらも、目をそらし、大きく頬を膨らませて、納得してなさそうな顔をしている。
(絶対わかってねえな……)
 そう考えているフィックスの心境を何となく察しながら、クリアーは宿の店員に言われた事を思い出していた。

『相手が自分を好きって……どうしたらわかるの?』
 クリアーは、花に水やりをしている女の顔を、じっと見つめた。
『そんなの簡単よー! 思いっきり顔を近づけるのよ!』
『顔??』
 女は手を止め、クリアーを見つめ返す。
『そう! その時真っ赤になったりしたら、惚れてる証拠よ!』
『真っ赤に……』
(確かに……ボク、コールに近づかれたら、赤くなっちゃうもんな……)
 好きの確認方法がわかって、クリアーは納得して頷いた。

 店員とのやり取りを頭の中で整理し、クリアーはまた、目の前のフィックスを見つめた。
「フィックス……」
「ん?」
 クリアーはおもむろに椅子から立ち上がり、そこを指さした。
「フィックスが椅子に座って」
 突然の指示に、フィックスは驚く。
「え??」
「座って!」
 大きな声を出すクリアーに、フィックスは圧倒された。
「はい……」
(今度はなんだよ……)
 言われるままに、フィックスはクリアーが座っていた椅子に移動する。
「座ったぞ……」
 なんなんだという顔をしているフィックスを見つめながら、クリアーは思う。
(これでフィックスが赤くなったら……)
 そして、椅子の背後にある壁に、両手をついた。
「え?」
 きょとんとしているフィックスは無視し、クリアーはそのままゆっくりと、顔を近づけていく。
(何!? 壁ドンはじまったんだけど!?)
 いきなりの展開に、動揺からフィックスは真っ赤になった。
「やっぱり……フィックス……ボクの事……」
「は!?」
 その時、壁についている手がすべった。
「わ!」
 顔を近づけていたせいで、クリアーはフィックスの額に、キスをする形になってしまった。
「ご……ごめんっ!!」
 そんな事をするつもりではなかったクリアーは、さすがにこれには赤面してしまった。されたフィックスも、顔がますます赤くなっていく。
(ヤバい! この雰囲気!! ……でも……気持ちバレるわけには……)
 そう考えながら、フィックスはこの場を何とかする方法をさらに考えた。
「……は! こんなん、猫に舐められたくらいにしか思わねえよ!」
「猫……」
 クリアーはフィックスの言葉に、気が抜けてしまった。
「俺はお前と違って、付き合った事も何度もあるし……なんなら、口にしてやろうか?」
 そう言ってフィックスは、クリアーの顎に手を添えた。
「!!」
 ニヤニヤしながらからかってくる相手に、クリアーは怒りと恥ずかしさで、また赤面した。
「ふぃ……フィックスの、ばかっっっ!!」
 半泣きで怒鳴ったあと、クリアーは走って、部屋の外に出た。
「た……助かった……なんなんだよもー……俺の気持ち聞き出して、どうしようってんだよ……どうせコールの事……好きなくせに……」
 顔を片手で覆い、フィックスは複雑な心境を、なんとか抑えていた。

 走り去ったクリアーは、廊下で思考を整理していた。すると、一部始終を木の上から見ていた一二三ひふみが飛んで来る。
「クリアー」
「一二三ちゃん……」
 窓の縁に止まり、一二三はクリアーを見上げた。
「大丈夫?」
「うん……」
「ケンカしたの?」
 首を傾げる一二三に、クリアーは寂しそうに答える。
「うん……一二三ちゃん……もし……絶対に答えられない人に……言われてないけど……好きって思われてるかもしれない場合って……どうしたらいいのかな?」
「え?」
 クリアーは俯いて、不安そうな顔をしている。
「んー……相手がはっきり言わない以上は、特に気にしなくてもいいんじゃないかなあ?」
「……そっか」
 まだ不安そうな顔のクリアーに、一二三はさらに続ける。
「言えない何かがあるなら、聞いても相手も困るんじゃない? こっちも答えられないなら、今まで通りでいいと思うよ。それに勘違いって事もあるし……」
「勘違い……」
 思い返せば、店員に気があるんじゃないかと言われただけで、フィックスからはまだ何も言われてないという事実に、クリアーは気づいた。
「言える時は言えるタイミングがくると思うから、すごく困ってるわけじゃないなら、時期がくるのを待つのがいいと思うよ」
「……でも……」
 フィックスは大事な仲間で兄のような存在。そんな相手が自分に恋愛感情を向けていて、それに答えられない。そんな状態は、相手を苦しめるんじゃないか……クリアーはそう感じていた。
「その人と離れたいなら、距離を取った方がいいと思うけど……」
 一二三の発言に、クリアーは大きな声で、自分の気持ちを伝える。
「離れ……たくないよ!」
「じゃあ……」
 笑顔でそう続ける一二三に、クリアーもパッと明るい笑顔になった。
「そっか……そうだね! ボクが気にし過ぎだったかも!」
 嬉しそうな相手に、一二三は翼を大きく動かした。
「色々あるかもしれないけど、クリアーが思った通りにしたらいいと思うよ!」
「うん! ありがとう一二三ちゃん!」
 お礼を言われ、にこにこと一二三は微笑む。
「ボク、ちょっと行って来る!」
「うん! いってらっしゃい!」
「いってきます!」
 手を振り、走り去るクリアーの背中を見つめながら、一二三は思う。
(相手の気持ちが、一緒に居る事でどんどん大きくなったら、それはそれでお互い大変な気もするけど……特にフィックスは…………でもこれもケースバイケースだもんね……まあ、お互い何か学べると良いね)
 なんとなく二人の関係をわかっている一二三は、祈るように左右の翼を合わせ、目を瞑った。

 自分の部屋の近くに戻ってきたクリアーは、ドア付近で立ち止まる。
(フィックス、まだ部屋に居るかな……)
 緊張からの動悸を抑えつつ、ゆっくりとドアに近づき中をのぞくと、イスでフィックスがスースーと寝息を立てていた。
「寝てる……」
 クリアーは部屋に入り、相手に近づく。
「フィックス……」
 その声を聞いて、フィックスは目を覚ました。
「ん……? あ……俺……寝てた……?」
 どうやら、考えすぎて疲れて眠くなり、そのまま寝てしまったようだった。
「フィックス……ごめん……ボク……もしフィックスがボクの事女の子として好きだったら…………離れるつもりだった」
 突然の衝撃的な内容に、フィックスは驚く。
「え……なん……で……」
 クリアーは苦しそうな顔をし、胸に手を当て続けた。
「ボクは……気持ちに答えられないし……でも……一緒に居ると……フィックスが辛いかもしれないし……」
 俯いているクリアーを見つめながら、フィックスは思う。
(……俺の事を考えてくれたのは嬉しいけど……でも……今離れるとか……それは絶対に……許さねえ!!)
 相手の心境の変化には全く気づかず、クリアーは少し笑いながら話す。
「で……でも、ボクの勘違いかなって思って! へへ!」
 そう言ったクリアーを、フィックスは不意に腰から抱き寄せると、顎に手を添え口のギリギリ横に、キスをした。
「えっ!!」
 瞬時にクリアーはのけぞり、目を見開いて、真っ赤な顔で相手を見つめる。
(こんくらいの仕返しは……させてもらう!)
「は、ばーか! さっきも言っただろ! 俺はこんなの気にしねえ! お前の事も……女として好きとか……ねえよ! 自惚れんな!!」
 フィックスは精いっぱい、大嘘をついた。
(嘘つきたくないけど、離れるのは、もっと嫌だ……)
 そう考えながらフィックスは、この切ない想いを抑えて、表向きは一生懸命、余裕のある表情をした。
「で……でも顔赤くなって……」
 呆然とするクリアーに、フィックスは淡々と返す。
「お前も今赤いじゃん、俺の事好きなの?」
「あ……そっか、ビックリして……」
 フィックスはパッと、腰を抱いていた手を離し、続ける。 
「そういう事。それに俺は、顔めちゃくちゃ近づけられると、相手が男でも女でも赤くなるタイプなの」
「そうなの??」
「おう」
 フィックスは、さらに適当な嘘をついた。
「そっか、良かった! フィックスがボクを女の子として好きじゃなくて! ボク、フィックスと離れたくないから!」
 笑顔で嬉しそうに言うクリアーに、フィックスはつぶやくように返す。
「……俺も……離れたくねえよ」
(だから……お前への気持ちは……まだ言わねえよ)
 フィックスは切なくなった気持ちを払うように、今度はクリアーを、優しく抱きしめた。
「フィックス……えへへ!」
 自分に恋愛感情がなかった事に安心したクリアーは、相手に答えるように、抱きしめ返す。
「ちなみに彼女は大事にするからな!! まー、お前も一応女だし? 彼女が嫌がるだろうから、彼女いたらこんな事は絶対しねぇから! そこは誤解するなよ! お前は妹なんだからなっ!!」
「うん!!」
 互いの恋愛感情の大きさは違えども、相手を大切に思う気持ちは同じである二人は、しばらく抱擁を交わした。そんな時、窓を軽く叩く音が聞こえた。
「ん?」
 窓に目をやると、そこにはブラックが笑顔で立っていた。
「な……」
 パッと離れ、二人はブラックの元へ近づき、窓を開ける。
「離れる前にみんなにこれ、今までありがと☆」
 そう言って、ブラックはお菓子を手渡してきた。
「ありがとうブラック! あ! そうだ!」
「ん?」
 クリアーはさっきのフィックスの、ある言葉を少し疑っていたので、それを確かめる為にブラックに協力してもらう事にした。
 そしてブラックは、苦笑いしながら、フィックスに至近距離で壁ドンされた。
「なにこれ……」
「とりあえず付き合え……あとで説明するから……」
 そこからフィックスは、拳を強く握り、力を入れて、顔を赤くした。
「な! 言った通りだろ? 俺は相手が誰でも、顔めちゃくちゃ近づけられると、赤くなるって!」
 その通りの現場を見て、クリアーは手を合わせて返す。
「疑ってごめんね!」
「問題ねえっ!」
 二人に何があったのかはわからないが、フィックスがクリアーに変な事を言ったのはわかるブラックは、またまた苦笑いをした。
「俺様とばっちりじゃんー、お菓子もってきてあげたのにー」
 まだ仲間を抜ける事をやや怒っているフィックスは、怒鳴るように言った。
「最後に役に立って、良かったな!」
「最後って何よーもー、一回パーティ移動するだけじゃんー」
 少々の罪悪感もあって、珍しくたじろぐブラックに、フィックスはさらに顔を近づける。 
「俺とクリアーの応援すんだろ? な?」
「もー、顔近いー、こわーい」
 恋愛って面倒くさい! と、強く思うフィックスとブラックだった。