第二十六話 「一二三の一日」

【恋愛ファンタジー小説】『千の希望』第二十六話 「一二三の一日」[アイキャッチ]

 夜が明け、朝の光が差してきた頃、一二三ひふみは木の上で目を覚ました。
「ふああ……眠たいなあ……」
 軽く体を動かし、空を見つめる。
「今日も良い天気!」
 木の上から飛び立ち、一二三は窓から中を覗き込むと、ベッドで気持ち良さそうに寝ているクリアーの姿が見えた。
「まだ寝てるね、コール達はどうかな?」
 次は、コール達の部屋の窓から中を覗き込む。丁度、ブラックが外に移動しているところだった。
「ブラックは起きてる。ショートスリーパーだから、遅く寝ても早起きだねえ」
 そうつぶやいてから、一二三はブラックの元へ飛び立った。
「んー☆ 今日は何しよっかなー☆」
 背伸びをしながら、ブラックはゆっくりと深呼吸をした。
「ブラック、おはよー」
 一二三が到着し、ブラックの肩に止まる。
「お☆ 一二三ちゃんおはよー☆」
 ブラックは、懐から穀物の入った袋を取り出し、笑顔で中身を差し出した。
「はい☆ 鳥のエサ☆」
 その言い方に、一二三はむっとする。
「鳥じゃないって! 不死鳥だよ!」
「にゃはは☆」
「これもエサじゃなくて、ただの穀物じゃない、もー」
 怒っている一二三に、ブラックはにこにこしながら、明るい声を出す。
「ごめんねー☆」
 そして、差し出された穀物を、一二三は食べた。
(こんなのに騙されないんだからね! …………うん、美味しい。……さては、ちょっとお高いのを買ってきたな……ブラック……やるな)
 一二三はそう思いながら、ぺろりと完食した。
「ぼく、不死鳥だから、ご飯いらないのに」
 その言葉に、ブラックは笑顔を返す。
「でも、味はわかるんでしょ?」
「うん」
 さらににっこりと、ブラックは微笑んだ。
「だったら、食べて喜びを味わってもいいんじゃないの?」
「まあ、ぼくも美味しい物食べたら、美味しいなって思うからね!」
 ブラックは一二三を片手に乗せ、高く掲げて言った。
「一緒に、楽しい時を過ごしましょうー☆」
「うん!」
 一二三はみんなが起きるまで、ブラックと行動を共にした。

 コール達が目を覚ましたあとは、全員で部屋に集まって朝食の準備をし、楽しい食事がはじまった。一二三は窓の縁で、その様子を眺めていた。
「でねー! フィックスがー!」
 クリアーは楽しそうな声で、最近の出来事を話す。
「お前、その話二人にしなくていいから」
 フィックスはクリアーの言葉を遮り、頭を軽く小突く。
「だってー」
 小突かれた頭をさすりながら、クリアーはフィックスを見つめる。そんな様子を一二三は微笑みながら観察していた。
「あ、一二三ちゃん、お水飲む?」
「うん!」
 クリアーが水を差し出すと、一二三はクチバシで、上手に飲んだ。
「不死鳥だから、水もいらないんだけどね」
 そう言う一二三に、クリアーは首を傾げる。
「お水飲まずに、どうやって生きるの?」
 クリアーの質問に、一二三は得意げな顔で、翼を広げて答えた。
「ぼくは、空気中の水分を合成できるんだよ!」
 フィックスは一二三に近寄り、まじまじと見る。
「仙人みたいだな……霞を食うみたいな……」
「不死鳥だよー」
 ブラックは座ったまま、感心して何度も頷いた。
「飲まず食わずで生きれるって、ホント仙人だねー☆」
「不死鳥だってばー」
 そのような会話をしながら朝食が終わると、一同は解散し、自由に過ごす。一二三はというと、木の上に移動してゆっくりしていた。
「これからどうしようかなー……あれ?」
 なにやら声がするので下を見ると、そこに、スロウとリーフの姿を発見した。
「また来てるなあ……まあ、毎日だけど」
 スロウとリーフはロストに頼まれて、日課のクリアーの監視にきていたのだった。
「……今日も……出発する感じは……ないね……」
 スロウがそう言うと、リーフは真顔で答えた。
「そうねー」
「クレア様達が出発するのは……基本……朝だから……朝のチェックをしっかりしていれば……旅立ちを……見逃す事はない……」
 そう話すスロウの言葉に、一二三は思う。
(把握されてるー)
 リーフはスロウを見つめ、楽しそうに続ける。
「見逃しちゃっても、近くの別の街に移動するだけだから、そこ行けばいいんだけどね★」
「まあ……そうだけど……」
 スロウがそう答えたあと、一二三は二人の近くに飛んだ。
「あら? この鳥って、クレア様の」
「ホントだ……」
 しばらく二人の周りを飛んでいると、リーフがそっと手を差し出したので、一二三はそこに乗った。
「かわいい! 手に乗ったわよ! ねえスロウ!」
 リーフは興奮気味に叫び、スロウを見る。
「うん……なつっこい……鳥だね……」
 前かがみになり、スロウは一二三の頭を撫でた。
(この子達は、ぼくが不死鳥だって知らないから、話すとビックリするよね……腹話術だと思ってたし……今は近くにコールもクリアーも居ないから、言葉は話さないでおこう)
 一二三はそう考え、何も話さず、リーフを凝視した。
「じっと見てるー★ 私の可愛さにメロメロなのかしら!」
「自分で……言う?」
 リーフの自信満々なその言葉に、スロウは、信じられないと言わんばかりに、眉間にシワを寄せる。
「私可愛いでしょー!」
「可愛いけども……」
 そんな二人のやり取りを聞いて、一二三はスロウをじっと見る。
(この男の子の方が、顔は可愛いけどね)
 そんな事を思っているなんて知らないリーフは、さらに興奮して言う。
「なにか言いたげな目をしてるわ! 私の事、キミ、可愛いねー! って思ってるのよきっと!」
 その内容にスロウは、さらに眉間に強くシワを寄せた。
「そうかな……」
「もー! ノリが悪い!」
「だって……」
 一二三は特に問題はなさそうだと思い、飛び立った。
「あら、いっちゃった」
 リーフはそう言うと、手を降ろし、今度は自分のカバンを漁りはじめた。その間にスロウは、クリアーの居る部屋を、遠目から覗く。
「今日はもう……監視は大丈夫かな……リーフ……帰ろう」
 スロウがリーフの方を振り返ると、むしゃむしゃと小さなパイを食べている姿が目に入った。
「あー!! それロスト様の分!!」
「いいじゃない、また買いに行けば」
 そう話すリーフに、スロウはさらに叫ぶ。
「さっき一個食べたじゃん!!」
「だってこのパイ小さいんだもん、足りなかったのー」
 相手のその主張に、スロウは呆れた顔でつぶやく。
「もー……また買うの……面倒くさい……」
「はいはい行くわよー★ ついてらっしゃい★」
 スロウにウインクし、リーフは歩き出した。
「リーフが食べたせいじゃん……」
 肩を落とし、ため息をついたあと、スロウはリーフのうしろをゆっくり歩いた。木の上に移動した一二三は、その様子を見て思う。
(スロウはリーフに振り回されてる感じだねー)
 向きを変え、別の場所を見ると、今度は遠くにロストの姿を発見した。
「お、リーダーのロストだ……」
 一二三は木から飛び立ち、そのままロストのところまで行く。
「む?」
 そして、こちらに気づいたロストの肩に止まった。
「この鳥は……クレアの……」
 不思議そうに自分を見つめるロストに対し、一二三はしばし考える。
(……この子の前でも話せないね)
 ロストは何故か、驚いたような顔をして言った。
「クレアの鳥が肩に止まるとは……まるで……クレアの思いが、私の元に届いたかのようだ」
 それを聞いた一二三は、眉をひそめる。
(妄想がすごい……)
 そんなふうに思われている事も知らず、ロストは一二三に話しかけた。
「今、クレアは私を想っているのか?」
(全く、キミの事は考えてないと思うよ……)
 一二三がそう考えても、ロストは変わらず、目を輝かせる。
「そうか……お前もそう思うか」
(妄想がすごい! さすがストーカー!)
 あまりのポジティブな思考に、一二三は呆れた。
「ふ……今日は何か、良い事がありそうだ……」
(付き合ってられないなあ……)
 そう思ったあと、一二三はロストを放置して、そこから飛び立った。
「さて、クリアーは今、何してるかなー?」
 クリアーの部屋の窓が開いていたので、そこから中を覗くと、部屋に相手はおらず、代わりに黒い虫が一匹いた。
「あ!! クリアーの苦手な虫だ!!」
 一二三は葉っぱをくわえ、部屋に入って威嚇し、虫を追い払った。
「ふー、クリアーが見たら怖がるからね! ぼく、えらい!」
 一仕事終えて安心していると、開いているドアから、フィックスが入ってきた。
「お!」
「あ、フィックス」
 一二三は床から、フィックスを見上げた。
「お前……そんなとこ居たらあぶねえだろ……踏みつぶすぞ」
 そう話しながらフィックスは、洗濯済みのクリアーのタオルをテーブルに置いた。
「ちょっと虫を退治してたんだよ」
「虫? まさかあれか?」
「そう、クリアーの嫌いなあれ!」
 フィックスはそれを聞いて、真顔になった。
「……どうやって倒した?」
「え?」
 一二三のクチバシを、フィックスは凝視した。
「口か!? その口でか!?」
「違うよ!」
 フィックスは少し考え、首を傾げて言った。
「食った??」
「食べないし!! 大きな葉っぱをくわえて、それで威嚇したの!」
 一二三は近くに落ちている葉っぱを、翼でフィックスの方に払った。
「倒したんじゃなくて追い出したのか」
「そう!」
 フィックスはその葉っぱを拾い上げると、淡々と続けた。
「一応、口洗っとけよ」
「わかってますー」
 一二三は拗ねたように顔を背けた。
「あと、動物は宿に入ったらだめなんだからな。入るのは窓のとこまでだ」
 フィックスは窓を指さし、一二三を見る。
「わかってるよ! それに動物じゃないし! 不死鳥だもん!」
「見た目が鳥なんだから仕方ねえだろ」
 それを聞いて、一二三は怒ったような声を出した。
「ふーんだ!」
 そして、その場から飛び立った。そんな飛んでいく一二三を見ながら、フィックスはつぶやく。
「しかし、元気な鳥だなあ……」
 フィックスは葉っぱを窓から捨て、クリアーの部屋を出た。

 一二三はしばらく、青空の下を優雅に飛んでいた。
「お空は気持ち良いなあー」
 しばらく飛行を楽しんでいると、小太りの男が、木箱の下敷きになっている現場を目撃した。
「あ! 大変だ!」
 一二三は急いで、コールの元に向かった。
「コールー! 大変大変!」
「どうしたの?」
 状況を説明し、一二三はコールを、さっきの場所へと連れて行く。
「大丈夫ですか!?」
 コールは急いで木箱をどけて、相手を救出した。
「いやあ、助かったよ、ここ誰も通らなくて……」
「ケガとかないですか?」
 そう言われ、小太りの男は自分の体を確認する。
「痛いところはないね、いっぱい落ちてきたから動けなくなってたけど、良い落ち方をしてきたみたいで、ケガはないよ!」
 笑顔の男に、コールもホッと胸をなでおろした。
「よかったです!」
「ありがとうね!」
「はい!」
 男と別れ、コールと一二三は、宿に戻る道を歩いていた。
「教えてくれてありがとう、一二三」
 コールのお礼の言葉に、肩に止まっている一二三は、嬉しそうに翼を広げた。
「ぼくは体が小さいから、助けられないからね! でも、ああいうのを見つけるのは得意だよ!」
「うん! また何か見つけたら、教えてね」
 コールがそう話すと、一二三は自分の胸を、翼で叩くようにして答えた。
「任せて!」
 そして、コールと一二三は、笑顔で微笑みながら、宿に戻った。

 その後も、一二三は活発に活動し、日はすっかり傾いて夕方になっていた。
「もう夕方かー、お空綺麗だなー」
 一二三が夕焼けに見とれていると、遠くに、またロストが居るのを見つけた。
「ロストだ……監視にきたのかな?」
 その時、外から帰ってきているクリアーと、ロストが遭遇した。
「あ、見つかっちゃったね」
 二人はその場で、楽しそうに話し出した。
「あの二人……元々仲の良い知り合いだったみたいだけど……クリアーの記憶が戻ったら、どうなるんだろうなー」
 複雑な気持ちで、一二三は二人を眺めていたが、五分程度経つと、クリアーが手を振り、ロストと別れた。
「あ、話し終わったね」
 すぐに一二三は、ロストの元に飛ぶ。
「む、またクレアの鳥」
 自分を見つめるロストの肩に、一二三は止まった。
「さっきクレアに会って話せたぞ。やはり、今日は良い事があったな」
 目を輝かせ、ロストはとても嬉しそうにしている。
(自分がクリアーの周りウロチョロしてるからじゃない! そんなに頻繁に来てたら、会う事もあるよ!)
 一二三はそう思いながら、ロストを見つめ返す。
「きっと、クレアも無意識に、私と会いたかったのだと思う」
(怖いくらいにポジティブだ……ほとんど妄想だし……)
 あまりにも独りよがりな思考に、一二三は引いた。
「また……あの時のように……一緒に居られる日が……来るといいな……」
 少し寂しそうに語るロストを、一二三はじっと見つめた。
(でも……一緒に居たのは確かみたいだし……急に一緒に居られなくなって……寂しかっただろうね……コールも……同じような事言ってたな……って……コールが寂しい時を過ごしたのは、この人のせいだけど……)
 そう考えたあと、一二三はロストの肩を咬んだ。
「む? どうした?」
(何があったかはわかんないけど……コールの気持ちも考えてよね!)
 静かに怒りながら、一二三は一生懸命、ロストの服を咬む。
「こら、服を食べるんじゃない」
 一二三に咬まれないよう、手で服を抑えるロストを無視し、今度はその手をクチバシで軽く突く。
(食べてるんじゃないもん! 咬んでるんだもん!)
 そんな様子を見て、ロストはふと、一二三の意図がわかったような顔をして、つぶやいた。
「そうか……お前も早く、クレアと一緒になってほしいのか」
 嬉しそうな声で語る相手に、一二三は呆れる。
(全然通じない……もー)
 そう思ったあと、一二三は飛び立った。その飛んでいく姿を、微笑みながらロストは見つめる。
「ふ……鳥に応援されたな……」
 ロストがクレアの事を考えながら黄昏れていると、そこにスロウが迎えにきた。
「ロスト様……」
「スロウ」
 スロウはロストに一歩近づき、手を差し伸べる。
「……帰りましょう」
「ああ、あと十分したらな」
 ロストのその発言に、スロウは眉をひそめた。
「……そう言って……二十分……三十分って……ずるずる遅くなるでしょ……暗くなりますし……今日はもう……監視は終わりです」
「……」
 ロストは無言の抵抗をしたが、スロウはロストの服を引っ張る。
「ほら……帰りますよ」
「…………わかった」
 スロウに引っ張られ、クリアーの居る宿を見ながら、ロストは去った。

 日が落ち、真っ暗になると、一二三は木の上で寝る準備をはじめた。
「今日も一日忙しかったなー! 明日はどんな日になるんだろう……みんなが幸せに……なっていくといいなあ……」
 一日の活動を終え、一二三はコール達の事を思い出しながら、微笑みながら眠りについた。

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