第二十四話 「コールの思い①」

【恋愛ファンタジー小説】『千の希望』第二十四話 「コールの思い①」[アイキャッチ]

 今日はよく晴れた気持ちの良い朝だった。コール達は朝食や洗濯などを済ませ、部屋でゆっくりと過ごしていた。
「棒兄ちゃん、今日休みだけど、何すんのー?」
 ブラックはお茶を飲みながら、その横で、管理表に記入をしていたフィックスを見つめた。
「街をブラブラするかな。買い出しの時じゃ、じっくり見れねえし」
「そうだね☆ コールくんは?」
 ブラックの向かいに座って休憩をしていたコールは、少し考えてから答えた。
「んー……オレも散歩ですかね」
「お、じゃあ俺と一緒に行かね?」
 フィックスのその言葉に、コールは微笑む。
「はい」
 そんな二人を見て、ブラックは手を挙げた。
「じゃー、俺様もー☆」
 しかし、フィックスはブラックに対して、迷惑そうな顔をした。
「お前……たまには遠慮しろよ」
 ブラックはきょとんとしながら、フィックスを見つめる。
「なんでー?」
「コールと二人で買い物したい」
 そう言われ、コールは不思議そうな声を出す。
「え?」
「俺ら、なんだかんだで、あんまり二人で買い物とかしないじゃん」
 コールは、上を見ながら過去を思い出したあと、フィックスに視線を移した。
「言われてみれば、そうですね」
「だから二人で行ってみたい」
 フィックスの珍しいお願いに、コールは少し嬉しくなった。
「はい!」
 それを聞いたブラックは、人差し指を立てて、嬉しそうな顔をする。
「なるほどー☆ 棒兄ちゃんは、コールくんとデートしたかったのね☆」
「デート言うな……」
 眉間にシワを寄せるフィックスを無視し、ブラックはさらに続けた。
「じゃあ、俺様はクリアーちゃんとデートしようかな☆」
 聞き捨てならない内容に、フィックスが焦る。
「それはホントにデートになるだろ!」
「えー、手出さないし仲間なんだし、イイじゃーん☆」
 ブラックの今までの行動から、クリアーには本当に手は出さないだろうと、フィックスは思っていた。
「……絶っっっ対、変な事すんなよ」
 嫌そうな顔をしている相手に、ブラックは笑顔で親指を立てる。
「もっちろん☆」
 さっき断ってしまったのもあり、フィックスはしぶしぶ承諾する事にした。
「なら……許可する。……あと、それはデートじゃないからな! ただの買い物だからな!」
 許可された事を、ブラックは万歳をして、大げさに喜んだ。
「わーい☆ じゃ、誘ってくるー☆」
 そう言って嬉しそうに立ち上がり、部屋を出ていった。
「ブラックさん、もうすっかり仲間って感じですね」
 コールの発言に、フィックスは少し微笑みながら答える。
「おう。相変わらず買い出しは禁止してるけど、最近は家事もしてくれるし、家政婦もどきを雇ったみたいなもんだな」
「家政婦……もどきですか」
 コールがそうつぶやいたあと、ふと、フィックスは真面目な顔をした。
「……あいつ、いつまで仲間として居るんだろうな」
 フィックスのその言葉に、コールは過去のブラックの会話を思い出した。
「時期が来たら抜けるとは言ってましたけど、時期ってなんでしょうか?」
 書き終わった管理表を整理しながら、フィックスは答える。
「抜けたくなったら抜けるって事だろ。あいつ自由人だし……」
 そう聞いて、コールは少し寂しそうな表情を浮かべた。
「……」
「どした?」
「いや、ブラックさんいなくなったら、寂しいですよね」
 ブラックが抜けた事を考え、フィックスもまた、寂しそうに返した。
「ん……まあな……ムードメーカーみたいなとこあるしな」
「はい」
 書類を束ね、トントンと音をたてながら整え、フィックスは続ける。
「トラブルメーカーなとこもあるけど……」
「はは! そうですね!」
 笑うコールを、フィックスは優しく見つめた。
「泥棒もやめてるし、居るのは問題ねえけどな」
「はい」
 買い物などの記載をしている管理表を見ながら、フィックスはブラックの行いを思い出した。
「冗談で豪遊しようとする時もあるけど、実際は意外と倹約家だし、日頃あんまり金かかんねえしな」
 そう言われ、コールもブラックの行いを思い出す。
「オレも結構、節約とかする方なんですけど……ブラックさんの方が、お金の面ではしっかりしてるかもしれません」
 フィックスは椅子の背もたれに寄りかかり、一息つく。
「あいつ働いてねえからな。買う物そんなにねえからかもしれねえけど」
「家政婦も立派な仕事ですよ」
 そう聞いて、フィックスは眉間にシワを寄せる。
「あいつは気分でやるとこあるからな。まだまだ仕事って言えるレベルじゃねえよ……だから、もどき」
 コールは顎に手を添えて、考える。
「んー……ブラックさんって、ホントはどんな人なんでしょうか」
 フィックスも腕を組み、ブラックの内面を考えてみた。
「……表のキャラが胡散臭すぎて、ホントのキャラ見えねえな……」
「無理とか……してるんですかね」
 たまにブラックと酒場に飲みに行くフィックスは、その時の会話を思い出した。
「キャラ作ってるとか言ってたけど、あれがホントのキャラなんじゃねえかと、俺は思う」
「ふふ……どうなんでしょう」
 フィックスは、コールがいつまでも敬語で話してくる事を、少し気にしていた。
「……コールさ、俺に敬語使わなくていいよ。友達なんだし」
 急に提案された内容に、コールは焦る。
「え!? あ、でも……年上には、敬語の方が話しやすくて……」
「そう?」
「はい」
 コールを真っすぐ見ながら、フィックスは続けた。
「クリアーも年上だけど、敬語じゃねえじゃん」
「クリアーは最初年下だと思ってて、最初から敬語で話してなかったので、あとから敬語に変えるのも変だったから……」
「まあそうだな」
 少し申し訳なさそうに、コールは言う。
「なので、敬語でお願いします」
「……ふーん……」
 フィックスは俯き、不機嫌そうにして、人差し指と親指の爪を、ぱちぱちと弾く。
「友達なのになー」
 拗ねてるようなフィックスを見て、コールはさらに焦る。
「!! す、すみません!!」
 そんなコールを見て、フィックスは急に吹き出した。
「ふは!」
「……あれ? もしかして今、いじってきてます?」
 フィックスは、イタズラが成功したかのような顔を見せた。
「バレたか」
 コールは相手を悲しませたのではないとわかり、ホッとする。
「フィックスさん」
「はは! じゃあ行くか? 買い物」
 立ち上がったフィックスに、コールは元気よく返事をした。
「はい!」
 そしてコールはフィックスと、ブラックはクリアーと買い物に出かけた。

 晴れた街をゆっくり歩きながら、コールとフィックスは、服屋に小物屋、買うつもりはないが、家具屋なども見に行った。
 そして、買い物に出かけてから四時間程度経った頃、散々歩いて疲れてきたフィックスは、近くにあった二人掛けの長椅子に座った。
「はー! 色々回ったな!」
「はい」
 フィックスは調子に乗って、服にタオル、そして小物をいくつか買った事で、肩掛けのカバンが膨らみ、パンパンになっていた。一方コールは、日用品の新しい石鹸を買った程度だった。
「ホントに倹約家だなあ、お前」
「あんまり物欲がなくて」
 そう言うコールに、荷物を入れたカバンをさすりながら、フィックスは続ける。
「いいなー。俺とか、言い出したらキリないくらい、あれほしいこれほしいがあるけどな」
「ふふ」
 楽しそうなコールを見たあと、フィックスは空を見上げた。
「金がかかるから我慢してるだけでさ……あー! 色々買いてー、おしゃれしてー」
「はは!」
 ここでフィックスは、休憩せずに歩き回り、全く水を飲んでいない事に気づいた。
「喉乾いたな、あそこのカフェで飲み物買ってくるから、ここで待ってて」
 フィックスは、五十メートル程度先にあるカフェを指さした。
「カフェ入らないんですか?」
「なんか混んでるし、ここの方がのんびりできるじゃん」
「そうですね」
 肩に掛けていたカバンを降ろし、フィックスは立ち上がる。
「茶でいい?」
「はい」
「じゃ、買ってくる。荷物見といて」
 コールは頷き、フィックスの荷物を自分の側に引き寄せた。
「いってらっしゃい」
「おう」
 フィックスはそのまま、カフェに入って行った。ひとりになったコールが空を見上げると、青空の下に四羽の鳥が飛んでいるのが見え、気持ちの良いそよ風が吹いてきた。
「おだやかだなー……」
 サラサラと髪をなびかせて気持ち良くしていると、コールの元へ、一二三ひふみが飛んできた。
「コールー」
「……一二三」
 飛んできた一二三は、コールの膝に止まる。
「フィックスとのデートはどう?」
「はは! 楽しいよ」
 それを聞いて、一二三は笑顔で喜ぶ。
「よかったね!」
 膝の上の一二三に両手を添え、コールは続けた。
「うん……こんなに……仲良くできる人と出会えると、思ってなかった」
「コール?」
 コールは一二三を撫でながら、ゆっくりと話す。
「クリアーもだけど……オレ……『リョクの村』に居た頃も……親友って感じの人とは出会えなくて」
「そうなの?」
 一二三は首を傾げてコールを見つめる。
「オレ……遠慮しちゃうとこあるから」
「なんで遠慮しちゃうの?」
 コールは空を見上げ、過去に自分に言われた言葉を思い出した。
「んー……母さんは、気を遣い過ぎるって言ってたね」
「コール優しいもんね!」
 一二三は翼を広げて嬉しそうにした。
「ふふ……だから、色々考えちゃって……なかなか相手との関係に、一歩踏み込めなくてさ」
 そう語るコールに、一二三が続ける。
「でも、フィックスとクリアーには踏み込めてる?」
「うん。あの二人は……とても心地良い……」
 またそよ風が吹いたので、コールは目を閉じ、風を感じた。
「そっかー!」
 みんなの仲が良い事に、一二三もとても喜んだ。
「父さんがね……相手と居て心地の良い時は、相手がこっちに色々気を遣ってて、心地良い状態になってるって言ってたんだ」
「へえ」
 コールは、近くで遊んでいるこども達を見つめて、微笑む。
「オレ……ずっと相手に気を遣う方だったから、気を遣われる事があんまりなくて……でも、クリアーとフィックスさんは、結構オレに気を遣ってくれるから、心地良いのかなって」
「……気が合うってのもあるんじゃない?」
 一二三がそう言うと、コールはゆっくりと頷いた。
「それもあると思う。クリアーとフィックスさんとオレは……気を遣いあうのが心地良いって思うタイプなのかなって……ブラックさんも、表向きは変な事も言うけど、いつの間にか何かしてくれてたり、やっぱり気を遣うタイプなのかなって思う」
 片翼を広げ、一二三はにこにこと笑った。
「似たタイプと一緒に居るから、楽しいのかもね!」
「うん。……気を遣ってくれているのはわかるから、オレも……三人を大事にしたいんだ」
 コールは一二三の体を、また、優しく撫でた。
「好きなんだね! 三人の事!」
「うん、好きだよ」
 一二三は翼を広げて飛び、コールの肩に移動した。
「クリアーの事は? 女の子として?」
「え? ……魅力的な人だとは思うけど……フィックスさんが居るし」
「保護者を気にしてるって事?」
 そう言われ、コールは困ったような顔をする。
「んー……それもあるけど、フィックスさんって、実はクリアーの事……好きなんじゃないかなって思う時があって」
「へえ?」
「……聞くと恋愛感情はないって返されるけど……もし、保護者だから言えなくて、でも好きとかだったらさ、オレがクリアーを好きになったりしたら、なんかなーって……」
 一二三は普段、みんなをしっかり観察しているので、誰が誰を、どのように思っているのかを、かなり正確に把握していた。
(実は、フィックスもコールに対して、同じように考えてるのには、全く気づいてないね)
 そう考えながら、一二三は首を傾げて聞く。
「……コール、クリアーを好きになりそうなの?」
 空を見上げ、少しの無言のあと、コールは言った。
「……女性をちゃんと好きになった事ないから……なんとも言えないけど……それに……ロストも居るし」
「ロストねー……」
 一二三はギュッと目を閉じ、悩むような表情をする。
「そういう色々があるから、クリアーへの気持ちは……なんだかよくわからない……かな……」
 空を見上げたままのコールの真似をし、一二三も空を見上げた。
「ふーん。コールは元々、なんで旅をはじめたの? 人助けの為だけ?」
「……それも、あるかな……」
「も?」
 コールは、過去を思い出しながら続けた。
「父さんが……ロストとの事で亡くなって……母さんも、あとを追うように病気で亡くなって……大きな家に……オレは一人になったんだ」
 一二三はコールを見つめ、相槌を打つ。
「うん」
「両親はお金も十分残してくれてたし、オレも働く方法は身についてる。村に友達も、親切にしてくれる大人も居る、だから大丈夫だって思ってた……けど……」
「けど?」
 首を傾げる一二三に、コールは辛そうな表情を見せた。
「夜に一人で家の中に居ると、すごく、寂しくなるんだ」
「寂しく……」
 コールの声は、急に、少し掠れたようになった。
「こないだまで、父さんと母さんと、楽しく過ごしていたのに、なんで、急にこんな……オレ一人なんだろうって……」
「コール……」
 不安で手が少し震え出すと、コールはその震えを抑えるように、手を強く握った。
「ロストが現れなければ、ずっと、父さんと母さんと、幸せに暮らせたのにって……思っちゃって……」
「……」
 そう語るコールを、一二三は無言で見つめる。
「それで、両親と過ごした、あの家に居るのが辛くて……旅に出たのもあるよ」
「そっか……」
 一二三はコールの心境を察して、俯いた。
「旅に出る時に、仲良くしてたお姉さんが、一緒に行きたいって言ってくれたんだけど……相手にはちゃんと両親が居て、幸せに暮らしてた人だし、オレも旅ははじめてだから、迷惑かけるかもしれないしって思って……断っちゃった」
「コールはホントに、色々考えるねー」
「そういう性格なんだよ」
 肩から再び膝の上に移動し、一二三はコールを見上げる。
「その人と一緒に旅してたら、その人が親友になったんじゃない?」
「どうかな……少し……考え方が違ったから……仲良くはなれたけど……クリアーとフィックスさん程には……なれなかったのかもしれない」
「そっかー」
 コールはその女性を思い出しながら、優しく語る。
「かっこよくて、憧れる部分もあったんだけどね」
 一二三は、わざわざ旅について行こうとした相手の事を考えてみた。
「その子って、コールの事好きだったんじゃないの?」
 そう言われ、コールは驚いた。
「え!? どうかなー……オレぱっとしないし……綺麗な人だったから……オレを好きにならないんじゃないかなー……仲良くはしてくれてたけど……」
 コールの言葉に、一二三は思う。
(コールは、自分が可愛い系イケメンの自覚ないんだねー。普段もモテてるのに……)
「コールって、鈍感?」
 一二三が首を傾げて言うと、コールも首を傾げて返した。
「鈍感って??」
 その様子から、一二三はさらに思う。
(恋愛経験ないから、しょうがないか!)
「なんでもないよ!」
「って、オレさっきから愚痴ばっかり言ってるね。ごめん……」
 ゆっくりとリラックスして過ごしていたせいか、コールは珍しく、沢山の気持ちを表に出していた。
「いいよ! ぼくは不死鳥だから、人間の愚痴なんて平気だし!」
 一二三は自分の胸に手を当てるように、翼を動かした。
「はは! 一二三は強いんだね!」
「不死鳥だから!」
 お互い笑顔で見合ったあと、コールは空に、左手をかざした。
「オレも……もっと強くなりたい……ロストの事を……許せるくらいに……」
「コール……」
 また風が吹き、長くなっていた前髪が顔にかかった。その前髪を、コールはゆっくりと触る。
「この前髪の伸びる速度が、普通になる事って……将来あるのかな……」
 少し不安そうにコールは言う。
「……コール次第だよ」
「……うん、そうだね。ありがとう、一二三」
 コールが手のひらを差し出すと、一二三はそこに、ちょこんと乗った。そして、笑顔を交わし合っていたその時、一二三がすぐ横に何かを見つけた。
「あ」
「え?」
 その何かとは、コールの親を殺めた、あのロストだった。
「ろ!!」
(ロスト!!)
 コールは激しく動揺し、その場に固まってしまった。

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