第二十三話 「探り②」

【恋愛ファンタジー小説】『千の希望』第二十三話 「探り②」[アイキャッチ]

 ロスト達の事を探る為に、話をしていたフィックスだったが、クリアーへの気持ちを、スロウに気づかれてしまった。
「へえ……」
 スロウはそう言って、相手をじっと見た。
「…………」
 しかしフィックスは、顔を赤くしたまま、何も答えない。
(否定……しないんだ……そっか……本気の好き……なんだね……)
 そう思いながら、スロウは続けた。
「ふぅん……でも……クレア様はロスト様のだから……諦めてよ」
 その言葉に、フィックスは立ち上がり、大声を出す。
「ふざけんな! 急に出てきて何言ってんだよ!」
 荒ぶるフィックスに、スロウは淡々と返した。
「急に出てきたのそっちでしょ」
「え?」
「ロスト様からしたら、急に出てきたのは棒人間達の方じゃん」
 逆の立場からの視点を指摘され、フィックスは戸惑った。
「そ……そう……かも……しれねえけど……」
「だってクレア様は先に、ロスト様と居たんだから」
 その発言に、フィックスはスロウを指さし、叫んだ。
「そこも疑わしいんだよ!」
 しかしスロウは、真っすぐな目をして答えた。
「嘘じゃないよ」
「見たのかよ」
 問われた内容に、スロウは少し俯き、悲しそうな顔をする。
「見てないけど……あんなに沢山の……クレア様との話…………嘘でつけるわけない……」
「スロウ……」
 スロウは、ロストが日頃、楽しそうに自分にしてくれる、クレアの話を思い出していた。
「でもクリアーは覚えてねえじゃん」
 フィックスにそう言われ、スロウは小さなため息をつく。
「それが……問題なんだよねえ……」
「……クリアーは……前にお前らと過去の話したあと、ストレスで熱出して寝込んだんだよ」
 その話に、スロウは目を見開いて驚き、顔を上げた。
「え?」
 立ち上がっていたフィックスは、相手を見ながら、ゆっくりと座った。
「……記憶戻るのが怖いってさ」
「怖い? なんで?」
 驚くスロウに、フィックスは淡々と言う。
「思い出して、俺やコールよりも、お前らを選ぶのが怖いんだとよ」
「な……なんで……」
「俺らの方がいいからだろ」
 それはロストよりもコールがいいという事……そんなふうには思っていなかったスロウは、動揺し、立ち上がった。
「はあ!? そんなわけないし!」
「なんでそう言い切れるんだよ……」
 眉間にシワを寄せ、フィックスはスロウを見つめる。
「だって……ロスト様のクレア様の話では……絶対ロスト様の事……好きだし……」
「盛ってんじゃねえの? 話」
 疑うフィックスに、スロウは大声を出す。
「盛ってない!!」
「なんでわかるんだよ」
 そう聞かれ、スロウは強い目をして、叫んだ。
「ロスト様が言ってるからだよ!!」
「! ……お前……」
 フィックスは、スロウのロストへの信頼に驚く。そして相手は俯き、ぽつりぽつりと続ける。
「確かに……ロスト様は……策士だし……恋に盲目で……戦略の為なら……平気で嘘も……つくけど……」
「ろくな奴じゃねえじゃん」
 そう言うフィックスを無視し、顔を上げ、前のめりになり、スロウは両手でテーブルを叩いた。
「でも! クレア様への愛は本物だしっ!!」
 あまりの剣幕に、フィックスは圧倒された。
「お……落ち着けよ……」
 両手を前に出して、なだめようとするフィックスに対し、さらに大きな声でスロウは叫ぶ。
「あんたがロスト様を悪く言うからじゃねえか!!」
 今まで聞いた事のないスロウの口調に、フィックスは目を丸くした。
「!? ……お前……その言い方……」
「はっ!!」
 スロウは一度咳払いをして、サッと座った。そんな相手に、フィックスは眉間にシワを寄せて問う。
「もしかしてお前……普段……猫被ってる?」
「……何の事?」
 スロウは目をそらして答えた。
「とぼけんな……実は俺と同じくらい、口めちゃくちゃ悪いだろ……」
「知らないし……」
 目をそらしたまま、スロウは返す。
「まあ、もうそこはいいわ……認めそうにねえし……てか、さっきの、疑った俺が悪かった」
「……」
 スロウは不機嫌そうに、フィックスを睨む。
「俺も見てねえんだから、あれこれ言える立場じゃねえよな」
「そうだよ……」
 怒っているスロウに、フィックスは重要な事を話し出した。
「でもな、俺はクリアーの保護者なんだ」
 急に保護者だと聞かされ、スロウはきょとんとした。
「保護者……親?? ……禁断の……恋??」
 妙な事を言うスロウに、フィックスは呆れて返す。
「なわけねえだろ、年が近すぎるだろが……他人だけどさ……。前に集まった時に話しただろ? クリアーが俺の村の近くの森で倒れてたのを、カレンって幼馴染が見つけたって」
 スロウは、みんなで集まって会話をした、雷の日の事を思い出した。
「ああ……なんか……言ってたね……」
「それでカレンに頼まれて、一緒に面倒見るうちに、俺も保護者みたいになったんだよ。……だから、クリアーに危険が及ぶ事からは、守らなきゃなんねえの」
 その言い方が、スロウには引っかかった。
「危険…………それが……ロスト様って?」
「そう」
 フィックスの失礼な発言に、スロウは大声を出した。
「危険じゃないし!!」
 そう返され、フィックスは再び立ち上がって叫ぶ。
「ストーカーしてる奴を、どうしたら危険じゃないって思えるんだよ! このバカがっ!!」
 スロウも負けじと立ち上がり、叫んだ。
「バカはあんただろ!! ロスト様の事知りもしねぇで!!」
 また口調の変わったスロウに、フィックスがすかさず突っ込む。
「出たな!! やっぱ切れると口悪くなんじゃん! ああそうだよ! 知らねえから今日、色々聞いてんだろがっ!!」
 偉そうなフィックスに、スロウはさらに負けじと返す。
「じゃあ俺じゃなくて、ロスト様に直接聞けばいいじゃん!!」
 そう言われ、フィックスは視線をそらした。
「……あいつはなんか……絡みにくい……」
 急に大人しくなったフィックスに、スロウは呆れる。
「はあ? 絡みやすいかにくいかで……話しかけないでよ」
 視線を落とし、フィックスは少し間を空けて続けた。
「それに……」
「……それに?」
 聞き返すスロウに、苦しそうな表情で、フィックスは言った。
「……実はクリアーの元カレとかだったら……って思ったら………………話したくなかった……」
 それを聞いて、スロウは答える。
「……元カレじゃないけど……みたいなものだよ」
 フィックスは視線をスロウに戻し、叫んだ。
「元カレとみたいなものは全然違うだろ!!」
「同じだよ」
 淡々と返すスロウに、フィックスは否定するように手を振りかざす。
「ちげえよ!! お前恋人いた事ないだろ!」
 事実を言い当てられ、スロウはぎくりとした。
「……ないけど……何」
「俺はいた事ある」
 なぜか急に、フィックスはどや顔をする。
「…………何……マウント……とってきてんの? ……いた事あったら……偉いわけじゃ……ないし……」
 そう言うスロウに、フィックスは親指を自分に向け、勝ち誇った顔で続けた。
「お前より俺の方が、全然経験豊富だ」
「べ……別に……羨ましく……ないしっ!!」
 本当は凄く羨ましいスロウだったが、男のプライドが、悲しくも否定の言葉を発してしまう。それに気づいているフィックスは、とても偉そうに、あざ笑うように叫んだ。
「けっ! ざまあみろ!」
 バカにされたスロウは、シンプルに切れた。
「むかつくっ!! くそやろう!!」
「口悪いなお前! って! こんな話したくてお前に声かけたんじゃねえよ!」
 そう叫びながら、フィックスがテーブルを叩くと、スロウも同じように叩き返して続けた。
「脱線してるのは棒人間でしょ!!」
「そうだけど!!」
 二人は叫び過ぎて、息を切らしていたが、しばらく睨み合ったあと、スロウが先に座った。
「……で? ……何が……聞きたかったわけ?」
 眉間にシワを寄せて言うスロウを見ながら、フィックスも乱暴に座った。
「だから……クリアーのストーカーをやめろってのと、悪の『千の力』を広げようとすんのやめろって事をだな」
「クレア様をストーカーはしてない」
 スロウはきっぱりと答えた。
「あくまで……偶然で、してないを貫く気だな……」
 そう聞かれ、スロウは思う。
(俺も……ストーカーっぽいと思うけど……ロスト様が認めないから……俺も……表向きには……してないを……貫く)
「……してないし……悪の『千の力』も……意味不明だし」
 スロウのその言葉に、フィックスは疑問をぶつける。
「でもお前、ロストから継承したって事は、悪の『千の力』を継承したんだよな?」
 その質問に、スロウは首を傾げて、困った顔をした。
「悪のってのが……わかんない……」
 言われてみれば、フィックスもその事は、よくわかっていなかった。
「いや、俺もよくわかんねえけど」
「わかってないとだめじゃん」
 もっともな反論をされ、フィックスは頭をガリガリとかき、上を見たあと、スロウに視線を移した。
「んー……お前は、その力をいつかは誰かに継承すんだろ?」
「……まあ……いつかは……じゃないと……寿命きちゃうし……」
 普段は考えていない事を聞かれ、スロウはそういえばそうだったと思いだした。
「そん時に、同じ意志の奴にしか継承できないのは知ってるか?」
 フィックスの問いに、スロウは即答する。
「それは知ってる」
「……同じ意志の奴って事は……って、ロストの場合はどんな意志だったんだ?」
 フィックスはそう言いながら、首を傾げた。
「……ロスト様の……意志……」
 スロウは過去を思い出し、つぶやいた。
「………………復讐心」
「え?」
 聞き返すフィックスを一度見て、スロウは口が滑ってしまった、と思った。
「あ、いや……」
「じゃあ、お前も……復讐心があって、継承できたって事か?」
 そう聞いてくるフィックスに、スロウは思う。
(もう……言っちゃったから……いっか……)
「……まあ……」
 少し気まずそうに答えるスロウに、フィックスは続けた。
「そんなのを次々継承していいと思ってんのか? そんな奴が『千の力』持っても、ろくな事に使わねえだろ?」
 指を差しながら言ってくるフィックスに、スロウは首を傾げる。
「なんでダメなの?」
「え??」
「なんで、復讐心のある奴が、『千の力』持っちゃだめなの?」
 質問に対して、フィックスは少し考えてから、口を開いた。
「いや……悪い事に使うじゃん」
「悪い事に使ったら、なんでだめなわけ?」
「!!」
 フィックスはスロウと話していて、おかしな点に気づいた。
(あれ……こいつ……もしかして……自分が悪の意志の『千の力』を広めるって事が……悪い事を広めてるって、自覚してない??)
 目を見開いて自分を見るフィックスを、スロウは不思議そうに見つめ返す。
「何??」
「意図的に広げようとしてるわけじゃ……なかったって事?? え? って事は、ロストもだよな? ……無自覚の奴に……なんて言って説得すればいいんだよ……」
「何言ってるの??」
 フィックスは自分の両手を見つめ、わなわなと震わせた。
「まず自覚させようって話なのか??」
「??」
 両手で頭を押さえ、フィックスは叫んだ。
「途方もねえ!!」
 フィックスの話の内容が全くわからないスロウは、きょとんとしてつぶやく。
「何が……」
 じっとこちらを見ているスロウを見つめ返し、フィックスは大声を出した。
「わからん奴にわからせるって大変なんだぞ!?」
「それは……そうだね……」
 フィックスはテーブルに両手をつき、独り言を漏らす。
「えええ……そんな……大変な使命を……コールは……やるのかよ……」
「棒人間……さっきから……何言ってんの?」
 スロウが話しかけても、ショックが大きいフィックスは、俯いて独り言を続ける。
「俺が甘かった……話して聞くとは最初から思ってねえけど……まさか……話すら届かないなんて……」
 その言葉に、スロウはイラっとした。
「なんかバカにされてる?」
「バカどころじゃねえ……赤ちゃんだ」
「赤ちゃん……」
 フィックスは上を見て、しばらく考え、人差し指を立てて、スロウに言った。
「これわかるか? 人を殴ってはいけません」
「知ってるよ、当たり前じゃん」
「これはわかるのか……じゃあ……」
 腕を組んでさらに何かを考えようとするフィックスに、スロウはさらにイラっとした。
「ちょっと……俺の事……めちゃくちゃバカにしてない??」
「だから……バカじゃなくて赤ちゃんなんだって……」
 二人がそんなやり取りをしていると、ノックの音がした。
「フィックスー買い出ししてきたよー」
 長々と話していた事で、クリアーが買い出しから帰ってきたのだ。
「クリアー!!」
「クレア様!!」
「開けてー」
 荷物が多いようで、自分でドアを開けられないようだった。そんな相手に、フィックスは慌てて答える。
「ちょっと待ってて!」
「うん」
 部屋に居るフィックスとスロウは、小声で話しはじめた。 
「クレア様……俺に会いたがってたわけじゃ……ないんだよね?」
 そう聞かれたフィックスは、清々しいほどハッキリと返事をした。
「おう!!」
「なんて……良い返事…………んー……だったら……記憶戻るの……怖いって話だし……今はあんまり……何度も会わない方が……いいよね?」
 そう答えたスロウに、フィックスは思う。
(気遣いはできるのか……)
「そうだな! 少なくとも、もうちょっと時間は必要だ」
 フィックスのその言葉に、スロウは考える。
(こないだデートした時……そんな感じじゃなかったけど……無理してたのかな……)
 少し寂しい気持ちになりつつも、スロウはクリアーを気遣う結論を出した。
「じゃあ俺、今日は会わずに帰る」
「おう! 偉いぞ! 窓から出ろ!」
 そう言って、フィックスは窓を指さした。
「呼んどいて……なんて帰し方……」
「ごめんっ!!」
「もー……てか……何が偉いんだか……」
 そうつぶやくスロウに、フィックスは思った。
(善悪がわからん赤ちゃんなのに、気遣いできたからな)
 スロウは窓から部屋の外に出ると、すぐに振り返った。
「今日は帰るけど……次偶然会った時は……見逃してね……」
(ずっと会わないは……無理だし……)
 そんなスロウの言葉に、フィックスは叫ぶ。
「お前!」
 返事も聞かず、スロウはさっと走り去って行った。
「……ストーカー認めねえし……嘘つきはお前だろ……てか……他にも聞きたい事いっぱいあったんだけどなあ……」
 フィックスは頭をガシガシとかき、大きなため息をつくと、クリアーの元へ向かって歩き、ドアを開けた。そこには、カバンに入りきれなかった買い出しの荷物を抱えて、クリアーが立っていた。
「ごめん、重くはないんだけどバランス悪くて……床に置くと、ゴロゴロ落としそうだったから……キャベツ、安売りで四個も買えたんだ!」
 そう言いながら、クリアーはテーブルの上に荷物を置くと、そこにある、二つのカップを見た。
「あれ? 誰か来てたの??」
「んー……赤ちゃんがな」
「赤ちゃん??」
 フィックスは俯き、重い声を出した。
「まず自覚させないと……かぁ……」
「??」
 首を傾げるクリアーをよそに、フィックスは両手で顔を覆った。
「あー……大変過ぎる……」
「大丈夫?」
 心配して自分を見つめてくるクリアーを、フィックスは見つめ返す。
「頑張る……みんなで……頑張ろう……」
 フィックスは、片手の拳を軽く握りしめ、その腕を、ゆっくり上げた。
「何を頑張るの??」
「まずは道徳のお勉強……か……?」
「フィックス??」
 自分の中の悪を自覚していないロスト達に、これからコール達は、まず、悪を悪だと自覚させる為に、頑張らなければならなくなったのだった。

 ロスト達が泊まっている宿に戻ったスロウは、帰りを待ち構えていたリーフに、頼まれていたクッキーを手渡した。
「やったー! おやつー★ 私、食堂でジュース買ってくるけど、スロウもいる?」
「ううん、いらない……てか……今から昼食なんだけど……」
「それも食べるわよ! じゃ、買ってくるわね!」
 そう言ってリーフは、財布を持って部屋を出て行った。
「好きな時に……お菓子食べるんだから……」
 スロウがため息をついたあと、リーフと入れ替わるように、ロストが部屋に戻ってきた。
「スロウ、剣の練習はどこでしていたんだ? 表にはいなかっただろう?」
 そう問われ、スロウは思う。
(そういえば……最初は剣を振りに……行ってたんだった……)
「えっと……棒人間に呼ばれて……」
「棒に??」
 きょとんとするロストに、スロウは先程の出来事を話した。
「ふむ……確かにクレアはこの間も、記憶が戻るのが怖いと言っていたな……」
「え?」
「ああ、すまない。その事を伝えるのを忘れていた」
 それを聞いて、スロウはしばし考える。
(黙ってたわけじゃ……なかったのか……そりゃ……ロスト様は……クレア様の事……無限に話したい人だし……俺に言うのに……罪悪感なんて……ないもんね……)
 ロストは顎に手を添えて続けた。
「外堀から埋める作戦……棒もクレアの仲間だからな……仲良くすれば近づきやすくなるかもしれん。だが私はあいつは嫌いだから、それはスロウとリーフに任せる」
「ロスト様は……棒人間……嫌いなんですか?」
 スロウのその質問に、ロストは嫌そうな顔をして答えた。
「クレアにべたべたする男は、みんな嫌いだ」
 そんなロストに、スロウは思う。
(鬼ヤキモチ焼きだ……)
 あまりの嫉妬深さに、スロウは面白くなってしまい、吹き出した。
「ふ……はは! ……そうですね……好きな人に……べたべたされたら……嫌ですよね……」
「お前くらいなものだ、クレアと仲良くしていても、気にならない男は」
 そうロストに言われ、スロウは微笑みながら返す。
「信用してもらえて……嬉しいです」
「ああ、これからも頼むぞ」
 そしてロストは、スロウの背中を軽く叩いた。
「はい!!」
 しかし、この信用が、いずれロストとスロウを悩ます事になるとは、この時の二人にはまだ、想像もできなかった。

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