第十六話 「本音」

【恋愛ファンタジー小説】『千の希望』第十六話 「本音」[アイキャッチ]

 コール達が森を抜けて着いた街は、とても小さく仕事があまりなかった為、一週間滞在したのち、次の街へ移動する事にした。
 街の端にパン屋があったので、そこでパンを買い、四人は近くにあった岩の上に座って食べる事にした。
「美味しいー!」
 クリアーは両手でパンを持ちながら、満面の笑みで喜んでいる。
「焼きたてだし、マジ美味いな」
「フィックスの何味?」
「俺のはチーズ」
「ボク、リンゴ!」
「俺様もリンゴ☆」
「オレはブドウです」
 フィックス以外、フルーツ入りはちみつジャムを乗せた、甘いパンを食べていた。
「コール甘いの食べるの珍しいね! ブドウも美味しそう……」
 横に居るコールのパンを、クリアーはじっと見た。
「一口食べる?」
「え!?」
 コールにパンを差し出され、クリアーは赤面した。
「あ、食べかけだし、嫌だった?」
「そんな事ないよ!! 全然平気だよ!!」
「ふふ、食べたそうだったから。じゃあ、はい」
 二人のそんな様子を見ていたフィックスは、眉間にシワを寄せて、苛立った。
「えっと……じゃあ……」
 照れながら、コールのパンを手に取ろうとした時、フィックスがクリアーの食べていたパンを、勝手にかじった。
「あー!! ちょっと!」
「リンゴも美味いな」
 フィックスの視線と行動を観察していたブラックは、笑いを抑えられなくなった。
「にゃはは☆」
(棒兄ちゃん、ヤキモチ面白☆)
「なんで勝手に食べるの!!」
「美味そうだったから」
「もー!」
「ほら、俺のも食っていいから」
 そう言ってフィックスがパンを差し出すと、クリアーは大口でかぶりついた。
「お前!」
「ふーんだ」
「お前のも、もっとよこせ」
「なくなっちゃうでしょ」
 クリアーの言う事は無視し、フィックスも大口で食べ返した。
「あー! もうっ!」
「はは!」
 クリアーはムッとしているが、フィックスは大笑いをしている。そんな二人を見ていたコールとブラックは、その光景を微笑ましく思っていた。
(仲良しだなあ)
(面白ーい☆)
 食べ終わるとフィックスは、あくび交じりに背伸びをし、立ち上がった。
「腹ごしらえもしたし、行くかー。この先は賊が出やすい道らしいから、みんな、気を引き締めとけよ」
「うん!」
「はい!」
「へーい☆」
 少し曇った空の下、道をゆっくり進んでいると、前方で男が三人、何やら争っていた。
「ん? なんだ?」
 よく見ると、片方の二人組の男は賊のようで、剣を向けて、わめいていた。
「金を出せ!」
「そんなに持ってないんだよ! やめてくれ!」
 剣を向けられている方の男は怯えて、その場に縮こまっている。
「襲われてる!」
 コール達が助けに入ろうとした瞬間、襲われている男の左手から、強い光が発生した。そして、賊の持っている剣が、バラバラに破壊された。
「うわ! こいつ『千の力』の持ち主だ! 逃げろ!!」
 そう叫んだと同時に賊二人は、その場から走って逃げて行った。
「……『千の力』の……持ち主……」
 コールは自分以外には、ロストとスロウしか『千の力』の持ち主を見た事はなかったが、新たに出会った、すぐそこに居る『千の力』の持ち主を、少し戸惑いながら見つめた。
「うぅ……」
 座り込んでいる男に、コールは近づき、そっと手を差し伸べた。
「大丈夫ですか?」
「! ……さ……さっきの……見た……?」
 男は青ざめた顔で、コールを見ている。
「オレも……『千の力』の持ち主です」
「あ……良かった……」
 男はそれを聞いて、ホッとため息をつき、安堵した。差し出されたコールの手を取って立ち上がり、少し不安そうな口調で話を続けた。
「……また襲われると困るから、街に着くまで……一緒に居てもいいか?」
「はい!」
 コール達は助けた男と会話をしながら、次の街までの道を歩いた。
「へー、旅をしながら『千の力』で人助けか……」
「はい。あ、お名前は?」
 コールに名を聞かれ、男は嫌そうな顔をして、俯いた。
「……ごめん……言いたくない……」
「そうですか……わかりました」
 名前などが広まると『千の力』の持ち主は探されやすくなる為、名乗れないのは仕方のない事だと、コールは思った。
「俺……この力を手に入れてから……狙われたりで散々なんだ……それに『千の力』を使って寿命がくるのも嫌だし……」
「『千の力』を同じ意志の人に継承すれば、大丈夫みたいですよ」
「ああ、その話ね……でも失敗したら結局死んじゃうじゃん……そんな博打みたいな事できないよ……」
 男は俯いたまま、苦しそうな顔をした。
「『千の力』は、どうやって手に入れたんですか?」
 コールが聞くと、男はいきさつを話し出した。
「俺、片親だったんだけど……父が賊に襲われて、俺が庇って死にかけて、父だけでも守りたいって思った時に……」
(オレと少し……力を手に入れた状況が似てる……庇う庇われるのが逆だけど……)
「でも『千の力』を手に入れた事で、父は変わってしまった……金儲けに『千の力』を使おうと……俺を……利用しようとしたから、逃げてきたんだ…………もう家には戻れない……」
(父さんは……もし生きていたとしても……金儲けに使おうなんて……ならないだろうな……)
 コールが無言で相手の話を聞いていると、男は泣きそうな顔で、拳を握りしめた。
「こんな力がなければ、俺は父と今まで通り暮らせたのに……」
 そう言う男に、フィックスは軽く言った。
「いや、力なかったら、賊に襲われて、そのまま死んでたんじゃね?」
「フィックス!」
 クリアーが慌てて止めようとするが、フィックスは今の自分の発言を、何も気にしていないようだった。
「だってさ」
「もー! フィックス! デリカシーないっ! こっちに来なさい!」
 フィックスはクリアーに手を引かれ、少し離れたところに連れていかれた。
「にゃはは☆」
 ブラックは二人のやり取りを笑い、コールは申し訳なさそうにした。
「すみません……」
 男は頭を抱え、吐き捨てるように言った。
「……こんな力のせいで、俺の人生めちゃくちゃだ……!」
(…………そう思う人もいるんだ……クリアーは……本当のところ、どう思ってるんだろう……)
 距離を離されたとはいえ、男の言葉は全て聞こえていたフィックスは、切なそうにしているコールを、じっと見つめていた。

 二時間程歩き、コール達と男は、街に到着した。
「一緒に居てくれてありがとう…………もう会わないとは思うけど……さよなら」
 男は速足で、街の中に入って行った。
「なんか暗い奴だったな」
「フィックス!」
 クリアーが態度を叱るが、当人は反省する気は一切ないようで、目も合わさず、舐めたような態度をとっている。
「はいはい」
 手をひらひらと動かし、適当な対応をしているフィックスに、クリアーはため息をついた。
「もー……」
 コールは男に言われた事を気にし、クリアーに近づいて、じっと見つめた。
「……クリアー……」
「ん? なあに? コール」
 見つめ返されたが、次の言葉が出てこないコールは、目をそらして、俯いた。
「……何でもない」
「??」
 その様子を、フィックスは黙って、また見ていた。
「……」
「さっきからどうしたの? 棒兄ちゃん」
 声をかけてきたブラックと一度目を合わせたが、すぐにそらし、フィックスは頭をかいて言った。
「……いや、腹減ったな、早く宿行こうぜ」
 それでコールを見ていたとは思えなかったが、ブラックは空気を読んで、笑顔で答えた。
「…………そだね☆」
(棒兄ちゃん、またなんか人の事考えてるっぽいなー。ホントに世話焼きなんだから……デリカシーはないのになあ)
 ブラックはフィックスの肩を軽くポンっと叩き、寄り添うように、隣を歩いた。

 街に入るとすぐに宿を取り、昼食を済ませた四人は、その後、再び外出して街を散策し、日が暮れる頃に宿に帰った。
 夜になり、夕食を終えると、それぞれ自由時間をゆっくりと過ごしはじめた。
「またブラックさん、どこか行っちゃいましたね」
 みんなが風呂に入り終わってから、ブラックの姿が見えなくなった。
(あいつ、あの時俺の肩叩いてたし……気を遣ったのか?)
「……そうだな……なあ、コール」
「はい?」
「酒付き合ってくれね?」
「え? ブラックさんじゃなくて、オレでいいんですか?」
「コールと飲んだ事ないしな。酒飲める?」
「一般的な量しか飲めないですけど」
「ブラックと同じ量飲める奴なんていねえよ……じゃあ行こうぜ」
「はい」
 クリアーに酒場に行くことを伝え、フィックスとコールは宿から出た。酒場に向かう途中、世間話をしていたコールだったが、どこか上の空である事を、フィックスは感じていた。

 酒場に着いた二人は、さっそく軽いつまみと酒を注文した。
「ゆっくり飲もうぜ」
「はい」
 しばらくして、料理などがテーブルに並べられると、コールは端に置いてある塩を取ろうと手を伸ばした。だが、屈んだ事で、付けている首飾りが皿のふちに当たってしまった。
「おっと」
 コールは汚れないように、首飾りを手で胸元に引き寄せてから、塩を取った。
「コールってアクセサリー付けないイメージなのに、その飾りは、会った時から毎日付けてんな」
「え? ああ、これですか」
 コールが付けている首飾りは、黒の革紐の真ん中辺りに、細くて黒い楕円形の飾りがあり、その下に、同じ楕円形の飾りの小さいものが三連に重なったペンダントトップと、その周りを白と黒の牙のような三角形の飾りが二つずつ並んだ、不思議なデザインのものだった。
「大事な……もん?」
「『リョクの村』の……故郷で流行ってた、魔除けのお守りなんですけど……その……」
 言いにくそうにしている姿を見て、フィックスはコールの父親の事を思い出した。
「……父親の形見……とか?」
「あ! 違います! ただのお守りとして買った物で! オレ……あんまりオシャレとかしないし、これなら付けやすいなと思って買ったんですよ……」
 首飾りを触りながら、コールは照れくさそうに笑った。
「……なるほど」
(オシャレ……してみたかったんだな。飾ると金かかるから、俺もあんまりしねえけど、オシャレしたい気持ちはすげえわかる……モテるし。コールはモテるとか興味ねえだろうけど、ダサいって思われるのはちょっと嫌なんだな……)
「ブラックはピアスとか、しゃれたもん付けてるよな」
「はい、綺麗な黒いピアスを、いつも大事そうに付けてますね」
「なんかバラの良い匂いするしなあ……あいつ」
「石鹸じゃなくて、香水の香りですよね」
「金ねえくせに、香水は持ってるっていう……」
「オシャレが好きなんですよ、ブラックさん」
 フィックスはグラスを少し回したあと、酒を飲み、またグラスをゆらゆらと動かした。
「……俺もなんか、アクセサリーとか付けよっかなー……」
「あはは!」
 コールが笑顔になったところで、フィックスは本題に入った。
「……コール、大丈夫か?」
「え? 何がですか?」
 きょとんとしたコールに、フィックスは真剣な顔をして続けた。
「お前は『千の力』をクリアーに継承させてるから、もう『千の力』使っても寿命がくることはねえけど……クリアーはまだ、継承相手がいないから……不安あるんじゃないかとか、思ってねえ?」
 コールは一口酒を飲むと、少し寂しそうな顔をして答えた。
「……当たりです」
「やっぱな……」
 俯いてグラスを握りしめ、コールは心境を吐露した。
「知らなかったとはいえ、継承させて『千の力』を与えてしまって、オレの運命にクリアーを巻き込んでしまった……女性なのに……過酷な状況にしてしまった……『千の力』を欲しがっていたわけでもなかったのに……」
 コールが苦しそうな顔をしていると、フィックスは半笑いで返した。
「いや、あいつが無理言って、勝手について来たんじゃん……そして俺も……」
「あの時、断ればよかったのかなとか……色々考えてしまって……」
「いや、断っても多分、こっそりついて行くぞ。あいつはそういう奴だ……」
「はは! 確かに! クリアーならしそうです」
「そして俺も、結局クリアーが心配でついて行く事になるから、断っても同じだよ」
「そうなんですかね……」
 自信なさげなコールに、フィックスは優しい声で言った。
「だからお前は、何も気にしなくていいよ。俺今、結構楽しいしな」
「え?」
 コールは顔を上げ、フィックスを見た。
「クリアーとさ……『はくの村』に居た時って、全然今みたいに話せなかったからな。クリアーが俺を怖がってビクビクして、俺はそれにイライラして……まあ、今思うと、あいつを悪者だって思う事で、また好きにならないようにしてたのかもな……」
「女性として?」
 そう言われて、フィックスは眉間にシワを寄せた。
「……いや、コール来るまで男だと思ってたから、あの時好きになったらやべえし」
「別にやばくはないと思いますけど」
「…………外見超好みで、性格まで良いとか知ったら、男って言われても、好きになったりしたらさ、俺、マジでヤバい事になるじゃん」
「恋愛は自由ですよ」
 笑顔でそう言うコールに対し、フィックスはグラスを少し強めに、テーブルに置いた。
「俺は男は嫌だっ!! 相手は女が良いんだよっ!!」
「オレも男性を好きになった事ないですけどね」
「だから、ホントは『はくの村』に居た時に、実は良い奴だって気づいてたけど……最初に男に告白したと思った恥ずかしさとか色々あって、悪い奴だって思い込んでた…………まあ、あいつ変な事いっぱいするから、迷惑はしてたけどな……」
 肘をついてグラスを揺らし、フィックスは本当に迷惑そうな顔をした。
「はは! ……今は、女性だとわかりましたけど、ホントに好きになってないんですか?」
 フィックスは最近、クリアーへの恋心を自覚したばかりだった。
「…………いや、今はもう……この前も言ったけど……兄貴的な感じで……妹みたいにしか……思えねえかな……」
 目をそらし、遠くを見つめながら、大嘘をついた。
「そうなんですか……」
 フィックスは視線をグラスに移し、俯いて、考え事をした。
(クリアーはコールを好きっぽいし……コールも少し気があるみたいだし……もし将来二人が付き合ったりする可能性を考えると、コールには俺のクリアーへの気持ち、言わねえほうがいいよなあ……)
 目を合わさず、何かを考えているフィックスを見て、コールは言った。
「フィックスさん、オレ……フィックスさんの事は…………友達だと思ってます」
「え!」
 友達だと言われ、フィックスは驚いて顔を上げ、コールを見た。
「ずっとひとりで旅をしながら生きてきて、すぐに街を去るから、なんでも話せる相手って居なかったんです。だから……なんでも話せて頼りになる、フィックスさんと一緒に居られて……嬉しいです」
「コール……」
「へへ」
 コールは照れて、指で頬をかいた。
「……俺も、コールの事、友達だと思ってるよ」
「ありがとうございます!」
 互いの友情を確認し合ったフィックスとコールは、笑顔で見つめ合った。
(そう……友達だと思うから、多分この先も縁があるだろうから……クリアーへの気持ちだけは言えねえ……言えばコールは身を引いて、俺とクリアーが上手くいくように行動するだろうし……二人がもし両想いなら、俺が割り込むわけにはいかねえもんな……まあ……万が一クリアーが俺を好きになったとかなら別だけど……まず、男として見てもらえてないからなあ……悲しい……)
 フィックスは酒をぐっと、多めに飲んだ。
「でもオレ、七歳も年下ですよ」
「そうだけど、たまにすげえ年上の感じするけどな」
「え?」
「精神年齢か?」
「はは! それは結構、言われた事ありますね!」
「落ち着いてるしな」
 そう言われて、コールは少し、困ったような顔で返した。
「無理してる時も……ありますけどね……」
 フィックスは、つまみの肉にフォークを刺して、それを食べながら言った。
「まあ、そん時は俺に頼れば?」
「はい!」
 二人が嬉しそうに微笑み合っていると、後ろからチャラい声が聞こえてきた。
「ちょっとコールくん、俺様の大事な棒兄ちゃん、取らないでよねー☆」
「ブラックさん!」
「なんでここに!」
 ブラックには行き先を言っていないのに、なぜか現れ、二人は驚いた。
「クリアーちゃんに飲みに行ってるって聞いたよん☆ てか、俺様を置いて二人で酒場とか寂しいじゃーん、コールくんの泥棒ネコー☆」
 それを聞いてフィックスは、呆れたような声で言った。
「泥棒はお前だろうが……」
「もう引退したじゃん☆」
(さっき居なかったの、俺とコールに気を利かせたんじゃなかったのかよ!)
 フィックスは、ブラックを少し過信しているようだった。
「てか、変な言い方すんなよ」
「やだなー☆ 俺様と棒兄ちゃんの仲じゃない☆」
 にこにこと笑顔で言うブラックに、フィックスは少し照れた様子で返した。
「……お前も今は……友達……みたいなもんだろ?」
 友達だと言われ、ブラックは笑顔のまま、万歳をした。
「やったー☆ 棒兄ちゃん大好きー☆」
 そのままフィックスに抱き着き、喜びを表現した。
「抱き着くな!!」
 ブラックの無邪気な態度に、コールは笑った。
「はは!」
 抱き着いて表情の見えないブラックは、掠れるような小さな声で、つぶやいた。
「まあ、どうせ本当に友達になんか……なれっこないけどね……」
「あ? なんか言ったか?」
 相手から離れ、ブラックはいつもの笑顔を見せた。
「なんでもないよ☆ てか、実はクリアーちゃんも連れてきてました!」
「え!?」
 ブラックが手を指し示す先に、クリアーは居た。
「ひっく……」
 顔を赤らめ、明らかに酔っているであろうクリアーが、こちらのテーブルに移動してきた。
「ちょっと前に二人で近くで飲んでたんだけど、クリアーちゃん、めちゃくちゃ弱くて、すぐ酔っぱらっちゃった☆」
 フィックスは動揺し、勢いよく立ち上がった。
「お前!!」
(てか、さっきの話……聞かれてねえよな??)
 虚ろな目のクリアーを、フィックスは凝視した。
「ふぃっくす……」
 何を思ったのか、クリアーは急に、フィックスに抱き着いた。
「ちょっ!!」
 抱き着かれたフィックスは赤面し、固まった。
「どうも酔うと甘えん坊になるみたいで、さっき俺様もずっとしがみつかれてた☆」
「な!」
「なんもしてないから大丈夫だよー☆ クリアーちゃん、コールくんにもくっついたらー?」
 そう言われたクリアーは、片手を前に出して、大きな声で即答した。
「や!」
 思いっきり嫌がられたコールは、これにはさすがにショックを受けた。
「えっ!」
 クリアーは、フィックスをさらに強く抱きしめて言った。
「フィックスがいい……」
「え……」
 コールは拒絶するのに、自分には頬を染めて抱き着いてくる。そんなクリアーにフィックスは、強い胸の高鳴りを感じていた。
「だって……コールは……恥ずかしいもん……」
 クリアーは俯き、照れたような仕草をした。
「……ああ……なる……ほど……」
 拒否したのではなく、ただ恥ずかしいからだと知ったフィックスは、ドキドキが一気に冷めた。そもそもクリアーが頬を染めているのは、酔っているからである。
「クリアーちゃん☆ 『千の力』手に入れて、どんな気持ち?」
「ブラック!!」
(こいつ、俺らの話、全部聞いて……てことはやっぱり、気を利かせて居なかったのか……)
「ん……」
 クリアーは、ぼーっとしながら、コールを見た。
(……クリアー優しいから、オレに合わせてるだけで……ホントは昼間の人みたいに思ってたら……どうしよう……)
 コールが不安に思っていると、クリアーはにっこりと笑って、答えた。
「『千の力』手に入れて……嬉しい!!」
「え??」
「コールみたいになりたいから」
「え……」
 クリアーはコールに優しい笑顔を見せた。
「クリアー……」
 フィックスはコールに近づき、耳打ちをした。
「酔ってる時って本音出るって言うし、本心じゃん?」
「フィックスさん…………はい!」
 コールは不安が吹き飛び、満面の笑みを浮かべた。クリアーはかなり酔っているらしく、フィックスの背中に、頭をスリスリとこすりつけはじめた。
「ちょ……クリアー……猫じゃねーんだから……てか、布が傷むし……」
 口角が上がり、めちゃくちゃ嬉しそうな顔をしているフィックスを、ブラックは見て思った。
(顔デレデレじゃん☆ 良かったねー☆ いちゃいちゃできて☆)
「んー……ふぃっくすー……保護者のお兄ちゃんー」
「本音……」
 クリアーに保護者扱いされ、フィックスは虚ろな目をした。その様子を見て、ブラックは爆笑した。
「あっはっは!」
(全然意識されてないの、面白っ!)
「笑うなブラック!」
「だって! く……ふ!」
「くそ……」
 楽しそうにしている三人を見て、コールは大きな声で言った。
「みんな、ありがとうございます!」
 そう言うコールに、フィックスとブラックとクリアーは、笑顔で、声を合わせて返した。
「「どういたしまして!」」
 その言葉に、コールもまた、笑顔になった。

 翌日、酒を多く飲んでしまったクリアーは、二日酔いに悩まされていた。
「フィックス……頭痛いよー……」
 泣きそうな顔で両手で頭を押さえて言うクリアーに、フィックスは叫んだ。
「お前は二度と、酒を飲むなっ!!」
(泥酔するとあんなべたべたしてくるとか、理性抑えるの大変すぎるし、他の男となんかあったら嫌だし!)
「……うぅ……大きな声……頭痛い……」
「あ、わりぃ……まあ、飲むならせいぜい一杯までにしろ……弱いんだから」
「わかったよー……うぅー……」
 こんなに苦しくなるのに、お酒が大好きで、いつもいっぱい飲むなんて、フィックスはどうかしている……と思ったクリアーだった。

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