数年前からこの世界にひとつの噂が流れていた。
その力を得た者は手をかざすだけで、物を破壊する事ができる。
ただしその力は千回しか使えず、千回目を使い終わった者には寿命が訪れる。
ある者は力に溺れ、またある者は寿命を気にし、力を使う事を放棄した。
その力を利用する為に、力の所有者を捕らえようと、争いが起きる事もあった。
多くの者は、その力に憧れ、その力を手に入れたいと望み、力の所有者を探していた。
求めてやまない強大な力、人々はその力を、『千の力』と呼んだ——
そんな噂を人々が信じる中、よく晴れた、空気の清んだ森の中を、フードを深く被った一人の旅人が、マントをなびかせながら歩いていた。
道の途中、旅人は近くに村がある事に気づいた。
「こんなところに村がある。少しゆっくりできるかな」
長く被っていたフードを脱ぎ、一息つく。その人物は、二十代前半くらいで、黒髪に澄んだ目の、可愛い顔をした優しそうな男性だった。茂みを抜けて村に入った瞬間、何かの視線を感じた。
「ん?」
黒髪の女性が居る。……だが、日差しが強く、眩しいせいで、ハッキリと相手が見えない。
旅人は額に手をかざし、日を遮って再び相手を見た。するとそこには、とても美しい人物が笑顔で立っていた。
(わっ! すごく綺麗な人ー……!)
白い肌に大きな瞳、胸まで伸びた、サラサラとした薄紫色の髪をなびかせながらこちらを見ている。
(あれ? 今……黒髪だったような気がしたんだけど? ……見間違い??)
不思議に思いながらも、その美しい容姿に見惚れていた次の瞬間、勢いよく相手の右腕が動いた。
バキン!!
「?」
大きな音と共に、瞬時に防御した旅人の腕防具が割れる。
「え?」
よく見ると、相手は鉄の短いロッドのような武器を持ち、そのまま勢いよく近づいてくる。
「ちょ……ちょっと待って!!」
両手を前に出し、旅人は攻撃を止めようとした。その時、相手は旅人の後ろに何かを見つけ、驚いた表情をしたあと、急に立ち止まった。
「??」
振り返って背後を見ると、身長百五十センチ程度の、背の小さなショートカットの女性が立っていた。
「カレンさん……」
「ちょっと……何してるの?」
その言葉を聞いて、美しい人物は後ずさり、逃げようとする素振りを見せた。
「あ! こらっ!」
引き留めようとしたが、足が速く、そのまま走り去られてしまった。
カレンは小さなため息をついたあと、向き直って旅人を見た。
「すみません、大丈夫ですか?」
「はい」
「今なぜか、旅人を見たら襲い掛かるクセがあって、ごめんね!」
(すごいクセだな……)
カレンは申し訳ない気持ちから、手を合わせた姿勢で、そのまま話を続けた。
「前に、近くの森で倒れてるあの子を発見したんだけど、記憶喪失で家に帰れなくて、私が面倒見てるの……あんなだけど悪い子じゃないから、許してあげてね」
(記憶喪失……確かに不思議な雰囲気の人だったもんな)
旅人は先ほどの人物を思い出しながら納得した。
「この『白の村』には宿屋がないから……よかったらお詫びに、うちの空き家に泊っていって」
村に手を向け、旅人の返答を待つカレン。
「ありがとうございます! 助かります」
「じゃあさっそく案内するわ」
笑顔のカレンに連れられて、旅人は一軒の空き家に通された。部屋の中には、ベッドに薄い布団と枕、そして棚と机があった。質素だが、寝るには十分な家だった。
「ここ好きに使って良いから、何かあったら呼んでね」
「ありがとうございます」
カレンは旅人に笑顔を向け、去っていった。
(優しい人だなカレンさん)
旅人は着ていたマントを脱ぎ、荷物を置いて、部屋の外に出た。
「びっくりしたけど、部屋使えて良かった」
背伸びをしながら辺りを見渡すと、さっきの美しい人物が、少し離れた木の下に立っていた。
「あ……さっきの人だ」
「……」
「何か見てる?」
視線の先には、一人の老人が居た。
「この荷物重いわー……」
老人は、木箱に入った重い荷物を運ぶのに疲れて座り込んでおり、大きなため息をついている。
そんな老人を見ていた美しい人物は、急に走りだし、地面に置いてある荷物を手にして歩き出した。
「キャー!! 泥棒ー!!」
老人の大きな声に驚き、美しい人物は焦った様子で荷物を置いて、その場から走り去っていった。
「え……何だ?」
不思議な動きに旅人は混乱した。そんな一連の流れを偶然一緒に見ていた、近くに居た男が一言つぶやく。
「あいつまた……」
その言葉が気になり、旅人は男に質問をした。
「すみません、どういうことですか?」
「あ?」
銀髪に百八十センチは超える長身で、少し威圧感のあるつり目の男が話し始めた。
「あいつ最近よく荷物を盗もうとするんだよ。重い荷物の時に特に……叫んだりするとすぐ逃げるから、成功はしてねえけど、村に入ってきた旅人も襲ったりしてて迷惑してんだよ。イケメンだからって調子乗るなっての!」
(あの人……男性? ……だったのか??)
相手の美しさから、女性だと思い込んでいた旅人は、さらに混乱する。
「カレンに頼まれて面倒見る事が頻繁にあるんだけど……最近全く言う事聞かなくて……あんたも気をつけな!」
「はい……」
(……カレンさんはあの人の事、悪い子じゃないって言ってたし……さっきのも……あんな目の前で堂々と盗んだりするかな? ……なんか……変……だな……)
旅人には、男の話が、なぜだか腑に落ちなかった。
日が落ち、綺麗な三日月が見える夜道を歩きながら、買い物などの用事を済ませた旅人は、カレンに借りた空き家に帰ろうとしていた。
「すっかり暗くなっちゃったな……あ!」
またあの美しい人物が、旅人の目に飛び込んできた。
(あの人だ)
村の集会場の壇の上に、服の胸元に付けている、親指程度の大きさの赤い宝石を軽く握りながら、寂し気に座っている。
「……」
旅人は相手に近づいて、そっと声をかけた。
「あの……」
旅人の声に気づいた相手は、まるで地震でも起きたかのように、一瞬、体を大きく振動させ、とてもビックリした様子を見せた。
「ななな! ボ……ボクに何の用だ!」
相手はひどく怯え、腕で自分を守るようにしている。
(え? 襲ってきた時と全然違う??)
目を閉じ、ひどい怯え方をしている相手に対し、旅人は、ゆっくり近づき、優しく話しかけた。
「えっと……少し話をしたいんだけど、良いかな?」
「話?」
座っている場所の隣が砂で汚れていたので、相手はそれを払い、その場所を手のひらで示し、落ち着いたような口調で言った。
「ど……どうぞ」
(あれ? 優しい……ホントに同じ人……??)
「ありがとう」
「……うん」
砂を払ってもらった場所に座り、旅人は会話を続ける。
「名前は?」
「名前!? …………クリアー」
「良い名前だね。オレはコール、よろしく」
「よ……よろしく」
まだ緊張はしているようだが、互いの名前もわかり、クリアーは少し落ち着いた様子に見えた。
「聞くの迷ったんだけど……キミが物を盗もうとするのは……」
「え?」
「どうして——」
コールの言葉を遮るように、クリアーは叫んだ。
「なに!? ボクが人の物を盗むような奴に見えるの!?」
「え?」
あまりの剣幕に、コールは両手を前に出し、相手を落ち着かせようとした。
「いや……そう見えないから違和感あって、直接聞こうかと思って……」
クリアーは立ち上がり、大きな声で言った。
「困ってる人の重い荷物を持とうとした事はいっぱいあるけど、泥棒した事なんて一回もないよ!」
「——……?」
「あ、そういえば村に入ってきた時に襲ってごめん! 最近強盗が入って、女の子が怖い思いした事があったから、またそうならないようにって」
それを聞き、コールは下を向いて、両手で顔を覆った。
「……あれ?」
クリアーはコールがそんな動きをした意味がわからず、きょとんとしている。
そしてコールはやっと、今までの違和感の正体に気づいた。
(……そういう事か……オレは村の住人じゃないから、村人の声に違和感があったけど、人助けをしようとしてた、本当は優しいクリアーの事を……みんな……勘違いしてたのか……)
コールは顔を上げ、今起きた疑問を、続けて質問した。
「……荷物持つときに、相手に声かけてなかったけど、なんで?」
そう問われ、クリアーは両手の拳を握りしめ、赤面して答えた。
「声かけるとか恥ずかしいだろう!」
「えええ」
「話すの苦手なんだよ。カレンさんだけは……ボクをわかってくれるけど」
(カレンさんも優しいから、クリアーの動きから、何となくわかるんだろうな。旅人襲うクセがあるとは思われてるけど……)
俯き、悲し気な表情で、クリアーは続けた。
「言葉足らずで誤解される事もあるけど、人の役に立ちたいんだ」
「クリアー……」
立ち上がっていたクリアーは、再び横に座り、そして、ぱっと顔を上げ、コールを見た。
「もしもボクに噂の『千の力』があったら……人を助ける為に使いたい」
そう言ったクリアーの表情は、無邪気な可愛らしい笑顔で、光輝いて見えるほどだった。
「村の人たちは興味がないか、お金稼ぎに使うとか、嫌な奴をやっつける為に使うとか言うけど、ボクはそういうのは興味ないな!」
あまりにも可愛らしい笑顔を向けられた為、コールはまた混乱した。
(今の笑顔は……男性には……見えなかった……)
「あ! 変かな!?」
「え」
クリアーの無邪気な態度と、疑問が解けた安心感から、コールに笑みがこぼれる。
「ふっ」
(笑った!?)
「オレも同じ考えだから、変だとは思わないかな」
次はコールがクリアーに、無邪気な眩しい笑顔を見せる。それを見たクリアーは、少し驚いたような顔をしたが、すぐに口角が上がり、ホッとした表情へと変わっていった。
「そ……そっか、良かった」
「口下手なのは仕方ないけど、言葉っていうのは自分の意思を伝える為にもあるんだから、言わなきゃ伝わらないよ」
「う……うん……」
「行動は大事だけど、言葉も大切だと思うよ。行動からその意味を読める人は少ないからね」
少し間を置いて、コールが続ける。
「まあ……言葉で言っても……わからない人も多いけど」
そう言ったコールの声と雰囲気には、何か重く暗い、闇のようなものを感じた。
(コール……?)
「そういえば何であんなに力強いの? 鍛えてなれるレベルじゃないよね?」
長年使用してきた防具で、ヒビなどの傷みがあったとはいえ、腕防具を一撃で壊してきたあの力にも、コールは疑問を持っていた。
「特殊体質だ」
クリアーはきっぱりと答えた。
「特殊体質……」
当然のように答えるクリアーにあっけにとられながらも、少しの沈黙のあと、コールは自分の左の手のひらを見つめた。
(『千の力』か——……)
拳を握り、コールは何かを考えているようだった——
一夜明け、朝の光が村を包む中、クリアーは村のすぐ近くの崖の上に座って、仕事の手伝いをしているコールを眺めていた。
「コールいつまで居るのかな? もっと……話してみたいな」
じっと見つめていると、コールに手伝いを頼んでいた、近くに居る銀髪長身の男と目が合ってしまった。
(うわっ! フィックスと目が合っちゃった!)
崖の上に居るクリアーを見て、フィックスは思った。
(あいつ……あんなとこで何やってんだ? あぶねーだろうが……またなんか、襲うとか盗むとか、めんどくせー事考えてるんじゃねえだろうな?)
フィックスが気になって見ていると、いたたまれなくなったクリアーは、身を低くして隠れてしまった。
(あ! あいつ隠れやがった!)
クリアーの態度が気になり、落ち着かなくなったフィックスは、荷物運びを手伝ってくれているコールに声をかける。
「わりーコール、ここ任せて良いか?」
「はい」
「ちょっと上を見回ってくる」
護衛職のフィックスは、見回りもかねて、武器である棒術の木の棒を手に、とりあえず崖の上に向かう事にした。
その頃、崖の上を右に左にウロウロしながら、クリアーは不安になっていた。
(とっさに隠れちゃった。こんなんじゃ自分から話なんて……できないよ……)
コールと話したいのに、村人のフィックスと目が合ったくらいで隠れてしまう自分に嫌気がさし、ロッドを強く握りしめていたその時……目の前にある背丈ほどの丸い形の岩の前に、誰か座り込んでいるのが見えた。
「ん?」
鎖骨辺りまで伸びた艶のある美しい紺色の髪、頭部を覆うように巻いたバンダナと服は、全て真っ黒だが、ピアスや深紫色の靴などから、おしゃれが好きな人のように見えた。まつ毛の多いつり目と八重歯が印象的な美しい男性だったが、クリアーには見覚えのある人物だった。
「あー! 前に村に入った強盗!!」
その男はコールにも話していた、村に最近入ったという強盗だったのだ。顔や姿は目撃していたが、取り逃がしていたので、もうとっくに村から離れていたと思っていた。しかしまさか、こんな場所で遭遇するとは、夢にも想像していなかったクリアーは、驚きを隠せなかった。
(なっ! 護衛以外にも俺様を見ていた奴がいたのか!?)
それは強盗も同じようで、一瞬ひどく動揺したが、すぐさま気を取り直し、笑顔で立ち上がった。
「というか俺様は強盗じゃない! 泥棒だ!」
親指を自分の顔に向け、なぜか微笑を浮かべた決め顔で、強盗ではないと主張するが、そんな相手の主張は無視し、クリアーはロッドで素早い攻撃を仕掛けた。
「うおっ!」
(速い!)
泥棒はギリギリでなんとか避けるが、崖の上に到着したフィックスが、間髪をいれずに攻撃をする。
「おらあああああ!」
フィックスは泥棒の居た位置に、勢い良く棒を叩きつけた。
「うっわっ!」
しかしこの攻撃も避けられ、地面に棒を叩きつけた音が、虚しく響いた。すぐに体勢を立て直し、フィックスは泥棒に棒を向け、叫んだ。
「お前あんときの強盗だな!? 今度は逃がさねえぜ!」
取り逃がした強盗を見つけられた喜びを隠しきれず、フィックスは嬉しそうな顔をしている。
(えー!? 二対一かよ! 分が悪すぎる!)
「クリアー! よく見つけたな!」
「偶然だよ」
戦闘中に会話をしている余裕のある様子から、二人の力量が伺える。
(この二人相当……強いな!? 岩を落として騒ぎの間に、今度こそ盗みを行う予定だったけど、今は逃げるのが先だ!!)
泥棒は懐から丸い何かを取り出し、火打石で火をつけ岩に向けて投げると、すぐさま軽い爆発を起こした。
「わっ!」
丸い岩が、爆発の衝撃で、村の方にゆっくりと転がり始めた。
「岩が!」
それを見たクリアーは、走って岩の前に行き、特殊体質である怪力を使い、両手で岩を止める。
「クリアー!!」
その隙に泥棒は、どさくさで逃げようとしていた。
(足止めで使えて良かった)
「あっ! 待ちやがれこの野郎!!」
その声に振り返り、泥棒は笑顔で手を振りながら答えた。
「俺様の名前はブラックだ! じゃあねー♪ 美人さん、棒兄ちゃん☆」
「変な名前を付けるなー!!」
「にゃはは☆」
「フィックスうるさい……」
(ボク……大変なのに……)
独特な笑い声を上げながら、ブラックはそのまま走り去っていった。
「いくら怪力のお前でも、こんな岩支え続けられねえだろうが!」
「でも、村に落ちたらみんなが…………ボクは口下手で……力が強い以外なんにもできないけど……どれだけ傷ついても……命を落としたとしても……みんなの役に立ちたいんだ!!」
今まで見た事もないようなクリアーの言葉と態度に、フィックスは自分の考えに疑問を持った。
「クリアーお前……」
(こいつ最近悪人になったのかと思ったけど……逆……じゃね?)
先ほどのブラックの起こした軽い爆発の音は、村にも届いていた。その音を聞いたカレンは、崖の上に目を向けた。
「あら?」
そこには、村に落ちそうになる岩を必死に支えているクリアーと、その側で何もできず、呆然と立っているフィックスの姿があった。
「クリアー! フィックス!」
村人もカレンの声で気づき、集まってきた。
「なんだなんだ?」
「もう……限界だ」
まだ数分しか経過していないが、重すぎる岩に、クリアーの表情はどんどん険しくなっていく。岩を支え続ける事の限界を感じた、その時。
「クリアー!! フィックスさん!!」
「コール?」
マントをひるがえし、走って二人の元へ駆けつけるコールの姿が見えた。
「あとはオレに任せて!」
「任せてって……」
コールは、岩に向けて左手をかざした。
(まさか、あいつ……)
フィックスはクリアーの後方に移動し、両手を広げて呼びかける。
「クリアー! 離れろ! 来い!!」
(フィックス……)
言われるままに岩から離れ、背中から飛び込んできたクリアーを受け止めるフィックス。二人が岩と距離を取ったと同時に、コールの左手から強い光が放たれる。その光を見てクリアーは思った。
(この光は……? なんだか懐かしい……)
フィックスも、驚きながらコールを見つめる。
(これは、やはりコールは……)
コールの手のひらには『0055』という数字が浮かび上がっていた。
(『千の力』の持ち主!!)
ドガン!!
みんなが驚く中、背丈ほどある岩は、一瞬でバラバラに砕け散ってしまった。
(さっきの光……とても懐かしかった……ううん……光だけじゃなくて……
コール自身からも……コールと居たら……何か思い出せそうな気がする)
クリアーはコールに、記憶を取り戻す為の何かを感じていた。
なんとか危機を回避し、ほっとため息をつくコールだが、手のひらを見ると、『0055』から『0054』に数字が減っていくのが見えた。
(あと、五十四……)
騒ぎも収まった頃、村の端に、コール・クリアー・フィックス・カレンの四人が集まっていた。
「もう行くの?」
少し寂しそうにカレンが聞く。
「力を使って大きな光と音を出してしまったから……他の街の人が来るかもしれないし……事が大きくなる前に去ります」
『千の力』の持ち主は、存在が知られる事で危険に晒される事も増えるので、力を使った場合は、すぐにその場を離れる者が多かった。
「またいつでも来てね、助けてくれてありがとう」
下を向いて無言で佇むクリアーに対して、カレンが声をかける。
「クリアーも何か話したら?」
そんなクリアーを、コールは見つめた。
「クリアー……」
「コール……ボク……」
クリアーは重い口を開き、コールを強い瞳で見た。
「ボクも一緒に行きたい!! コールと居ると、何か思い出せそうな気がするんだ!!」
「……オレと居ると大変だよ、さっきよりもっと危険な目にも遭うかもしれないし」
目に涙を溜め、クリアーは力強く言った。
「それでも良いっ!!」
クリアーの強い思いと言葉に、コールは胸を打たれた。
しかし、自分の判断だけで旅に連れてはいけないので、保護者と思われるカレンを見つめる。
クリアーも目を潤ませ、カレンをじっと見て、名前を呼ぶ。
「カレンさん……」
「んんん……」
しばし悩むカレンだが、諦めたような顔で続けた。
「この子、一度言い出したら聞かないのよねー…………お願いできるかしら?」
コールは穏やかな笑みを浮かべながら、答えた。
「……はい」
「ありがとうコール!! カレンさん!!」
クリアーは満面の笑みで大喜びしたが、それを見ていたフィックスは、眉間にシワを寄せ、戸惑うように言った。
「クリアーお前…………二人で旅に出るって危ねえだろうが、俺も行ってやるよ」
その言葉に、苦虫を嚙み潰したような顔をするクリアー。
「えー……」
「あからさまに嫌な顔すんなよ……」
「まあ! 護衛のフィックスも行ってくれるなら安心ね!」
クリアーは嫌がっているが、カレンは手を合わせて喜んでいる。
「この子女の子だけど、体力と腕力はあるから、そこは頼ってね」
「は!? 女!?」
男だと思っていたのに、突然のカミングアウトにビックリするフィックス。
クリアーは、カレンに秘密を明かされて、口を開けてぽかんとした。
「カレンさん!! なんで言う!!」
「男二人と一緒に行くのに、男のフリなんて続くわけないでしょ?」
「でも……」
「伝えてないと困る事もあるでしょう?」
あまりの事実に落ち着かず、フィックスが会話に入ってきた。
「お前女だったのか! なんか変だと思ったら!!」
どうやらフィックスには、クリアーが男だと変だ、と思う出来事が色々とあったらしい。
「誰のせいだと!」
強い口調でクリアーは言い返した。
「あ? 俺のせい??」
そう言われて、過去を思い出すフィックス。
「…………ああ! もしかして初めて会った時に俺が、お前を女だと思って、付き合ってくれとか言ったからか!?」
照れているのか怒っているのか、顔を赤くしてクリアーは言う。
「そうだよ! ビックリしたんだから!!」
(やっぱ女だったんじゃん……)
「わりわりっ! あんまりにもタイプだったもんで! アッハッハッ!」
頭をかきながら、笑い飛ばしてごまかそうとするフィックスだが、クリアーに対して、女にしては気になる点がひとつあった。
「だからって男のフリしなくても……しかし女?」
男性と変わらない大きさのクリアーの胸を見ながら言った。
「サラシ巻いてるんだよ!!」
さらに怒るクリアーを、愛想笑いでなだめながら、フィックスは続けた。
「いや、小さくても良いけどよ、カレンくらいあるとわかりやすいよなって」
その言葉に、背後で笑顔のまま、周りに炎の幻覚が見えるほど怒っている、胸の豊かなカレンが話す。
「フィックス、出禁にするわよ〜本当デリカシーないわよねー」
カレンの怒りに、フィックスは焦った。
「な! 村長の娘の権限を使うな! コールもなんか言ってやれよ!」
「え?」
急にむちゃぶりをされ、しばし考えるコールだが、頬をかきながら、少し照れたようにクリアーを見て話し始めた。
「ごめん……その……綺麗すぎて……男性か女性か……わかってなかったから」
「えっ……??」
コールの素直な言葉に、クリアーは真っ赤になってしまった。そんなクリアーの反応を見て、フィックスは思う。
(こいつ……俺とコールとで反応えらい違うな…………なんかムカつく)
クリアーの反応は気に入らないが、コールの事は気に入っているフィックスは、コールに優しく声をかけた。
「じゃあ、とりあえずよろしくな」
「よろしくお願いします」
恥ずかしくて、コールを真っすぐ見れなかったが、クリアーも合わせて言った。
「よろしく……」
(綺麗って言われた……)
こうして、クリアーとフィックスは、コールの旅について行く事となった。
力を使い果たすと寿命が訪れる『千の力』……コールの『千の力』の残りカウント数は、あと五十四……
この時、コール達の近くを偶然旅していた、三人組の、もうひとつのパーティが居た。
「……」
リーダーであろうその男は、立ち止まって何かを考えていた。
「ロスト様ー」
仲間のもう一人の男が声をかける。
「……」
「どうしました?」
「スロウ……」
今度は仲間の女性がリーダーに声をかける。
「どうしたんですか?」
「リーフ……」
男はしばし黙っていたが、空を見上げ、続けた。
「……いやなんでもない……行こう……」
コールとロスト、この二人の出会いが、互い、そして仲間や周囲の人々の運命を、のちに大きく動かす事となるのだった——……


『千の希望』人気エピソード