ショートストーリー 「パートナー」

【恋愛ファンタジー小説】『千の希望』ショートストーリー 「パートナー」[アイキャッチ]

 天気の良い昼下がりに、フィックスとクリアーは買い出しをしていた。
 二人で世間話をしながら街を歩いていると、綺麗な女性が男性二人に囲まれ、なにやら口説かれている様子を目撃した。
「……そういやさ」
 目の前の光景を見ていたフィックスは、クリアーに視線を移す。
「ん?」
「お前、綺麗って言われ慣れてないって言ってたよな?」
「うん」
 フィックスは上を見て、過去を思い出しながら続けた。
「俺の村に居た時は、人と関わらない感じだったから……まあ、わからんでもないけど、ロストと居た時は人気者だったんだろ?」
 そう聞かれて、首を傾げてクリアーは答える。
「覚えてないけどね」
「人気者だったんなら、絶対口説いてくる男もいただろ……」
「そうかなあ? 人気者だからいっぱい言い寄られる、ってわけでもないんじゃないの?」
(いやいや……お前はその、とんでもなく美しい顔があるだろが……村に居た時も、最初、美人が来たって噂になって、クリアー目当てで来る奴は何人もいたしな……男って言ってたから、すぐ去ってたけど……)
 フィックスがそう考えていると、後ろから聞き覚えのある声がした。
「クレアを口説く者はいなかったぞ」
「!?」
 驚いて振り返ると、そこにはロストが立っていた。
「偶然だな」
 その言葉に、フィックスは思う。
(絶対嘘だ!! またストーカーしてたんだろ! こいつ!!)
 警戒してクリアーの前に出るフィックスだったが、ふと、今のロストのセリフを思い返した。
「って……口説く奴、いなかったのか? 信じらんねえけど……」
「……私がクレアと一緒に居た時の話だ。そうあの日……クレアは私と、ある約束をした」
 疑うフィックスに、ロストは何やら、過去を語りだした。

 ロストとクレアが一緒に歩いていると、鼻の下を伸ばし、ニヤニヤと笑う、明らかにクレアに気を持つ男が近づいて来た。
『クレアちゃん、今日も可愛いねー!』
 そう言われ、クレアは笑顔を返す。
『ありがとう!』
 二人のやり取りに、隣に居るロストは、苛立ちながら思う。
(クレアに近づく男が多いな……)
 男と離れ、二人きりになると、ロストはクレアをじっと見つめた。
『クレア』
『ん?』
『私とクレアは……友だな?』
 その問いに、クレアは嬉しそうに返事をする。
『うん!』
『一番仲の良い友だな?』
『そうだね!』
 にこにこと、笑顔で答えるクレアに、ロストは続ける。
『今度から、他人に関係を聞かれたら、友と言うパートナーだと伝えていいか?』
 その提案に、クレアは即答した。
『いいよ!』
『約束だぞ』
『うん!!』
 そう約束したロストは、またクレアに近づく男が現れた時に、ある事を実行しようと決意した。
 翌日、ロストとクレアはカフェでお茶を飲んでいた。
『美味しいね!』
『ああ』
 お菓子を食べているクレアに、男性店員が、鼻の下を伸ばしながら近づいてきた。
『お水のおかわり、どうですか?』
 そう言われ、クレアは笑顔で答える。
『ありがとうございます! お願いします!』
 店員は水を注ぎながら、クレアを見つめる。
『あのー、お名前、なんて言うんですか?』
『え? クレアです!』
『クレアちゃんって言うのかー! 可愛い名前だねー! よかったら仲良くしてねー!』
 一緒に居るのにお構いなしな店員を、ロストは睨んだ。
『ん? キミも水いる?』
 そう聞かれ、ロストは大きな声で答えた。
『クレアは、私のパートナーだ!!』
『え!?』
 ロストはわざと、友、という言葉を省いて言った。その言葉を聞いた店員は、がっかりした様子で思う。
(なんだ、こいつが恋人なのかー……)
 そして、ロストは勝ち誇り、店員は肩を落として去って行った。

「という事で、友と言うパートナーの私がいたからな……口説いてくる奴はいなかった」
 そう語るロストに、フィックスがすかさず突っ込む。
「まてまて!!」
「ん?」
「お前がパートナー……ってか、恋人と思わせて相手を牽制してただけじゃん!」
 そう聞かれ、ロストは真顔で答えた。
「そう言っていいと、クレアには許可を得てたからな」
「友を省いて言うな!! 男女でパートナーって言ったら、恋人だと思うだろ!」
 叫ぶフィックスに、ロストは変わらず真顔で答える。
「詳しく聞きもしない相手が悪い」
「お前……」
 やはりロストは策士だと、フィックスは確信した。
「パートナー……なんか、かっこいい……」
 二人の会話を聞いていたクリアーは、パートナーと言う響きに、憧れを抱いた。それを見逃さないロストは、さらに仕掛ける。
「そうだな。クレア、また私のパートナーになるか?」
「え?」
 しかし、フィックスがすぐに止めに入った。
「おい!! また友が抜けてるぞ!! それにお前は、クリアーと付き合ってなかったんだろうが!!」
 荒ぶるフィックスに、ロストは眉間にシワを寄せ、大きく舌打ちをした。
「チッ!」
「こいつ……クリアー! ロストを近づけるな!! こいつは信用ならねえ!!」
「どうしたのフィックス??」
 よくわかっていないクリアーは、きょとんとしている。
「そろそろ帰る。またな、クレア」
 そう言うロストに、フィックスは怒りながら叫んだ。
「もう来るなっ!!」
「何を言っている……ただの偶然だ」
 そこについて、一切動揺を見せないロストに、フィックスはまた叫ぶ。
「嘘つけ!!」
「フィックス落ち着いて……ロスト、またね!」
 手を振るクリアーに、ロストは笑顔で答える。
「ああ、またな……クレア」
「二度と来るなっ!!」
 犬を追っ払うように、手で払う動きをするフィックスは無視し、ロストはゆっくりと去って行った。
「もう……フィックスどうしたの?」
 クリアーは首を傾げて、フィックスを覗き見た。
「お前……今の会話で……何も思わなかったのかよ……」
 そう聞かれたクリアーは、嬉しそうな笑顔を見せる。
「一緒にカフェに行ったりしてて、仲良かったんだなーって思った!」
「そこかよ……」
 注意して聞いているポイントが違い過ぎて、フィックスはうなだれた。しかし、フィックスも、これで終わるような男ではなかった。
「……買い出し終わったら……俺達も……カフェ……行く? 甘いもん、食うか?」
「え!? うん!!」
 一連の流れを利用し、ちゃっかりクリアーをカフェデートに誘うフィックスもまた、策士な面のある男なのだった。