一二三に心境を吐露していたコールの前に、因縁の相手、ロストが現れた。
「ろ!!」
(ロスト!!)
コールがそう思っていると、ロストはこちらを見ながら、何事もなかったかのように通り過ぎて行った。
「き……聞かれてないかな? 思いっきり見ていったのに……無言だった……」
そう言うコールに、一二三が答える。
「聞こえてはないと思うけど……噂をすればだね!」
「うん」
「もしかしたら、あっちも気まずいのかも」
一二三のその言葉に、コールは過去の出来事に違和感を抱く。
「……ロストは一体……なんでオレの父さんを……」
「ちゃんと話し合った方がいいんじゃない? クリアーの知り合いってのもあるし」
仲間の過去の知り合い。そういう関係がある以上、あまり放って置くのもどうかとコールは考えていた。
「……うん」
一二三は、遠くに居るロストの背中を見ながら、翼を額にかざすような動きをして続けた。
「しかし、よく見るねー」
「え?」
「木に止まってる時にも、ロスト達の事、よく見るよ」
その言葉に、コールは驚く。
「え!? やっぱり尾行されてる!?」
「んー……」
(尾行というか……だいたい毎日、ロストかその仲間に監視されてて……もはやストーカーって事は、言わない方がいいかなあ)
翼で腕を組むようなポーズを取る一二三に、コールは迫る。
「一二三! 詳しく教えて!」
「んんんー……」
(言うと……関係がいよいよ破綻しそうな気がするし……)
教えるかどうかを一二三が悩んでいると、ロストが何かに気づいた素振りをし、キョロキョロしはじめた。
「ん? どうしたんだ?」
「なんだろうね??」
コールと一二三がロストを見ていると、近くの通路から、クリアーが歩きながら出てきた。
「クリアー!?」
突然の出現に驚くコールだが、ロストはクリアーに声をかけ、二人は話し出した。
「え? ……今、クリアーが居るのがわかった?? なんで?? ロストからは、見えない位置に居たよね??」
コールの疑問に、一二三は直前のロストの動きを思い出す。
「見つける前に、なんか嗅いでたよ?」
「匂いで!? そんな犬じゃないんだから!」
「うーん……クリアーが出てくるまで、結構距離あったしね……謎だね」
なぜ現れる前にクリアーの存在に気づいたのかは、考えても、コールと一二三にはわからなかった。
楽しそうに話す二人をしばらく見ていたコールは、いつの間にか、顔が引きつっていた。
「……」
「コール? 顔が怖いよ?」
一二三に声をかけられても、瞬きもせず、コールはじっと二人を見続けている。
「ごめん……なんか……クリアーとロストが仲良くしてると……なんか……」
コールのその発言に、一二三は思う。
(まあ、好きな人と嫌いな人が仲良くしてたら、楽しい気分にはなれないよね)
すると、ロストがまた何かに気づいた顔をして、今度はクリアーに触ろうとした。
「「あ!」」
コールと一二三が同時に声を出し驚いている間に、クリアーの顔にまつげがついていたようで、ロストはそれを取ってあげていた。
「気安く触らないでほしいー……」
嫌そうな声を出しながら、コールは相変わらず、引きつった顔をしている。
「ふふふ、コールはクリアーに、ロストと好きに話していいって言ってたけど、結構我慢してるよねえ」
そう言われ、コールは一二三を見つめる。
「嘘じゃないけどね、ホントに関係を制限したくはないんだよ。けど、目の前で色々見せられると……」
「まあ、コールは心が広い方だけど、人間だもんね!」
一二三のその言い方を、コールは不思議に思う。
「一二三はオレの事、なんだと思ってたの?」
「え? ……年の割にできた人間!」
「年の割に……」
コールと一二三が再び、ロストとクリアーに目をやると、いつの間にか、二人は会話を終えていた。
「話、終わってた……」
ロストが去ったのがわかり、コールは安心し、ため息をつく。
「あ、コール!」
クリアーがコールに気づき、笑顔で走ってきた。
(わ……クリアー嬉しそう……なんか……オレも嬉しい……)
笑顔で自分の元に走ってくるクリアーの姿に、コールは喜んだ。
「ブラックさんは?」
クリアーはブラックと遊んでいたはずだが、近くにブラックの姿は見えない。
「行列のお店で買い物するから、並んでる間休んでてって言われて」
その言葉に、一二三が呆れたように言う。
「自由だね、ブラックはー」
「ボクも並ぶって言ったんだけど、女の子並ばせるわけにはいかないって」
クリアーの発言に、一二三はまた、呆れたような反応をする。
「だったら違う日に、一人で行ったらいいのにね」
不機嫌そうな一二三を、コールはじっと見た。
「一二三はブラックさんの事、ちょっと苦手なの?」
コールの問いに、一二三は怒ったように答える。
「だって! ぼくの事、鳥鳥言うんだもん!」
「はは! 不死鳥だもんね!」
「そうだよ!」
ブラックとのやり取りを思い出し、一二三はプンプンと怒っている。
「フィックスは?」
姿が見えないので、クリアーは周りを見渡した。
「今、そこのカフェにお茶買いに行ってるよ」
コールが指さした先のカフェには、今は沢山の人が並んでおり、クリアーは並んでいる人々をじっと見た。
「ブラックも並んでたけど、あそこも人が多いんだね」
「そうだね」
カフェを眺めているクリアーを、コールは横目で見つめる。
「……クリアー……さっき……ロストと話してたよね?」
「え!? あ、見てたの!?」
クリアーは見られていたとは思っていなかったので、ひどく驚いた。
「うん……その…………何……話してたの?」
内容が気になっていたコールは、恐る恐る聞く。
「偶然だね! 天気良いねって!」
嬉しそうに、クリアーは返してきた。
「そっか……」
「あと、顔にまつげついてたから、取ってくれたよ」
「……」
(全部……教えてくれるんだ……)
コールはそう思い、包み隠さず教えてくれるクリアーにホッとした。一二三は、そんな二人を無言で見つめると、サッと翼を広げた。
「じゃあ、フィックスが帰ってくるまで、あとは若いお二人でー」
そう言うと、一二三は翼を羽ばたかせ、飛んだ。
「一二三! キミが一番若いだろ!」
「ゼロ歳だもんね」
コールとクリアーに指摘されるが、一二三は気にせず飛んでいく。
「ぼくは先に帰ってるねー、またねー」
「一二三ちゃんまたねー!」
去って行く一二三に、クリアーは手を振った。急に二人きりにさせられ、コールは思う。
(なんで二人きりにさせるんだろ……)
隣に居るクリアーを見ると、瞬時に目が合ったので、二人は話を続けた。
「ブラックとの買い物楽しかったよ! コールは?」
笑顔のクリアーに、コールも笑顔で返す。
「オレも楽しかった」
クリアーは、明るい声でコールに言う。
「良かったね!」
「うん……」
さっきまでの不安な気持ちはなくなり、コールは温かい気持ちになっていた。
(やっぱり……クリアーは癒されるな……あったかくて……太陽みたい……)
コールがそう思っていると、クリアーがにこにこと嬉しそうに見つめてきた。
「えへへ!」
「どうしたの?」
コールが聞くと、クリアーは少し照れながら続ける。
「コールって癒やされるなって思って」
「え!?」
「なんか、太陽みたい!」
本当に嬉しそうな顔をしているクリアーに、コールは思った。
(同じ……気持ち……)
まるで吸い寄せられるかのように、コールは手を伸ばし、クリアーに触れようとした。
「コール?」
「はっ!」
(無意識に手が!)
バッと、勢いよく手を降ろしたコールに、クリアーはきょとんとする。
「また、まつげついてた?」
「いや! み、見間違いだった!」
コールが大きな声でそう言うと、クリアーは納得した。
「そっか!」
「ごめん……」
俯くコールに、クリアーは気にしないでと言わんばかりに、笑顔で返す。
「ううん! 大丈夫だよ!」
足元を見ながら、コールは自分の今の行動について考えた。
(触ろうとして……無意識に手が動いたのなんか……はじめてだ…………いや……前にクリアーに抱きしめられて返そうとした時……あれも無意識だったな…………あれ? オレ……クリアーには……なんか……)
あれこれと考えているうちに、コールは顔が赤くなった。
「こ、コール! 顔赤いよ!」
「え!? あ、なんだろ……??」
自分の顔に手を当てながら、コールは思う。
(なんだ?? なんか……自分が自分じゃないみたいな……これがまさか……恋??)
目の前のクリアーを、コールは真っすぐ見つめた。
「大丈夫?」
自分を心配するクリアーを見つめながら、コールはゆっくりとつぶやく。
「大丈……夫」
そんなやり取りをしている間に、フィックスがお茶を持って帰ってきた。
「コール、遅くなった」
「わ!!」
急に声をかけられ、コールは激しく驚いてしまった。
「あ、わり、びっくりさせて」
コールはフィックスを見つめて、大きな声で返した。
「いえ!!」
クリアーはフィックスに手を振りながら、笑顔を見せる。
「フィックスおかえり!」
そう言われ、フィックスはクリアーの後ろを覗き込んだ。
「おう。てかクリアー、ブラックは?」
「えっとねー」
クリアーは、またブラックの事を説明しはじめた。コールはそんなクリアーを見つめながら、ゆっくりと考えていた。
(クリアーはもしかしたら……オレが……恋愛対象として……一歩踏み出せる相手……なのかな…………違う……かな……)
説明が終わった丁度その時、ブラックが笑顔で現れた。
「じゃーん!」
その手には、甘くて美味しそうな、クレープのようなパンを四人分持っていた。
「お」
「わー! 美味しそう!」
フィックスとクリアーがブラックのパンを見つめる。
「三十分並んで買ったおやつだよー☆ みんなで食べよう☆」
ブラックはにこにこ笑いながら、パンを差し出した。
「気が利くじゃねえか」
フィックスは手を伸ばし、嬉しそうに受け取った。
「ありがとう!」
クリアーも、満面の笑みで受け取る。
「ちなみに、棒兄ちゃんのおごりです☆」
フィックスを手で指し示しながら、ブラックは当然のような顔をしている。
「お前のおごりじゃねえのかよ……まあ、いいけどさ……」
少し呆れた顔をしたあと、フィックスはさっそく、パンを大口で食べた。
「甘いけど、これは上手いな」
「お金あとで頂戴ね☆」
ブラックはにこにこしながら、広げた手の人差し指と親指をくっつけ、お金を表す丸の形を作って見せた。
「はいはい」
フィックスから視線を移し、ブラックはコールを見て、パンを差し出す。
「はい☆ コールくん☆」
「ありがとうございます」
コールはブラックからパンを受け取ると、また、温かい気持ちになった。
(この人達と居ると……楽しいな……一人で家に居た時のあの気持ちが……嘘みたいだ……)
コールはそう思いながら、次の言葉が、自然とこぼれた。
「……ありがとう……ございます」
「ん? なんで二回言ったの?」
不思議そうに首を傾げるブラックに、コールは続けた。
「ふふ……言いたい気分だったんです」
「なるほど! そこまで俺様に感謝するなんて! さすがコールくん☆」
それを聞いて、フィックスが呆れた声を出す。
「なんのさすがだよ……」
みんなのやり取りに、クリアーは笑い出した。
「あはは!」
楽しそうな雰囲気の中、コールはクリアーを見つめて思う。
(クリアーへの気持ちが、友情なのか恋情なのかわかんないけど……まだ今は、ただ、みんなの側に居たいな……)
気持ちをハッキリさせる事よりも、今のこの時間を大事にしたい、コールは深く、そう思っていた。
そんな四人を、遠目から偶然発見した二人の人物が居た。
「あ、あれコール達よね?」
「ホントだ……」
買い出し中のロストの仲間のリーフとスロウは、遠く離れたその場に、立ち止まった。
「ねー! あれ、美味しそうじゃない!?」
そう言って、リーフは四人が食べているパンを指さす。
「まあ……美味しそうだね……」
「買いに行きましょう!」
目をキラキラさせ、リーフはスロウを見つめる。
「えー……あれ……確か……行列の店の……パンじゃない?」
スロウが嫌そうな顔で伝えると、リーフはさらに目を輝かせた。
「そうなの!? じゃあ絶対行かなきゃ!! どこの店!?」
流行り物が好きなリーフは、テンションが上がり、スロウの肩を強く掴む。
「言わなきゃ……よかった……」
スロウは虚ろな目をし、空を見上げて続けた。
「空って……いいよね……広いし…………リーフもさ……広い心を……持ってみたら? ……ほら、俺……帰ったら……洗濯物取り込んで……畳んで……そのあと……夕食作って……お皿洗って……明日の準備しないと……いけないじゃん?」
ロスト達の家事は、ほぼ全て、毎日スロウが担当していた。
「大丈夫よ! 疲れたら私が、肩揉んであげるから!」
そう言うと、基本家事を手伝う気のないリーフは、お構いなしに相手の手を取って歩き出した。
「ほら行くわよ! おやつおやつー★」
「はぁー……」
ため息をつきながら、スロウはこのあとリーフに付き合わされ、ブラックが並んでいた時より人の増えた店先に、二時間程、並んだのだった。
第二十五話 「コールの思い②」



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