爽やかな朝日の差す中、朝食を食べ終えたコール達は、各々の活動に移っていた。
「クリアー、俺ちょっと用事あるから、買い出し頼んでいいか?」
支度をしながら言うフィックスに、クリアーは不思議そうに相手を見つめた。
「大丈夫だけど、どうしたの?」
首を傾げるクリアーから視線をそらし、フィックスはテーブルに置いていた紙を手に取る。
「まあ……ちょっとな。……はい、これ今日の買い物リスト」
買う物が書かれた紙をクリアーに渡し、準備を終えたフィックスは、ドアの方へ向かおうとした。
「じゃー☆ 俺様がクリアーちゃんについて行こうかー?」
ブラックはクリアーに近づき、笑顔を見せる。
「お前はタオルとかの洗濯頼むわ」
フィックスのその言葉に、ブラックは不満の声を上げた。
「えー! 買い物の方が楽しいのにー!」
話すのが好きなブラックは、買い物を、散歩しながらおしゃべりするイベント、くらいに思っていた。
「お前はまだ余計な物買うからダメ。それに洗濯物が溜まってんだよ」
フィックスは、近くにある洗濯カゴに溜まったタオルと布巾を指さして、ブラックを睨んだ。
「面倒くさいー!」
そう叫び、駄々をこねるブラックの側に、クリアーが近寄る。
「ボク、買い物急いで行くから……そしたら……」
ブラックを手伝おうとするクリアーに、フィックスは大きな声を出す。
「甘やかさなくていいから! こいつが家事ちょいちょいさぼってるから溜まってんだよ!」
その発言に、ブラックは手を頭の後ろで組んで答えた。
「だってー、洗濯ってひとりでやったら、面白くないもーん」
「面白いからやるもんじゃねえだろ!」
怖い顔で怒鳴るフィックスを、クリアーが止めに入る。
「フィックス! 何か用事あるんだよね!? 行かなくていいの?」
「あ! そうだった……とにかく、クリアーは手伝うなよ、お前だって色々忙しいだろ? ブラックはちゃんとひとりで洗濯しろよ」
そう念を押され、ブラックは重い声で返事をした。
「へーい……」
クリアーは、ブラックに申し訳なさそうに目配せすると、相手は何か思いついたようで、笑顔を返してきた。
「じゃあさ、ちょっと行ったとこに美味しいクッキーの店があるらしいから、買い出しの時に買ってきてよ☆ 棒兄ちゃん、いいでしょー? ご褒美ほしいなー☆」
ブラックが甘えた声で言うと、フィックスは迷ったような顔をしたが、しばらくして、諦めたように口を開いた。
「……わかったよ。クリアー、そのクッキーも四人分追加で」
「うん!」
嬉しそうにクリアーが答えたあと、フィックスは部屋を出て行った。そしてブラックは、クッキーの売ってある店の地図を紙に書いた。
「はい☆ これお店の名前と場所ね☆ しかし、棒兄ちゃんって甘々だよねー☆」
「ふふ! そうだね! コールもお仕事から帰ってきたら、クッキー喜ぶね!」
「だねー☆」
二人は楽しそうに笑い合い、クリアーは買い出しに出て、ブラックは洗濯に向かった。
一方、コール達と同じ街に滞在中のロスト達は、その時間、朝食を食べていた。
「ごちそうさまー★」
リーフが手を合わせて、笑顔で食後の挨拶をすると、続けて食べ終えたロストも手を合わせた。
「ごちそうさま」
そう言われ、スロウはロストに、嬉しそうに笑顔を返す。
「スロウ、今日の食事も美味しかったわよー★」
リーフは、隣に座っているスロウの肩を叩いて言った。
「たまには……自分で作りなよ……」
全く料理を作らないリーフに、スロウは呆れた顔をする。
「だってー! スロウの方が料理上手なんだもん★」
そう話しながら、リーフはスロウの肩を揉んだ。
「もう……」
眉をひそめるスロウに、ロストが申し訳なさそうにつぶやく。
「いつもすまないな」
その反応に、スロウは慌てて答えた。
「いえ! ロスト様の食事は、一生俺が作るので! 大丈夫です!!」
「私のもよろしくー★」
首を傾げて可愛く言うリーフに、スロウはまた呆れた顔をする。
「ついでにね……」
「かわいくなーい!」
そんなやり取りをしながら朝食を終えると、ロストは外出し、後片付けを済ませたスロウも、外出の準備をしたあと、剣を手にして歩き出した。
「剣持ってどこいくの?」
不思議そうに聞くリーフに、スロウは答える。
「剣の……練習」
街に長く居ると剣をなかなか使わない為、剣技が衰えないように、スロウは定期的に練習などをして、努力していたのだった。
「頑張るわねー、ちょっとくらい平気なのにー……あ! ついでにおやつ買ってきてー★ なんか美味しいクッキーの店があるらしくて、それ食べたい!」
そうお願いする笑顔のリーフに、スロウはため息交じりに返事をする。
「はいはい……」
(面倒だから……先におやつ……買ってこよう……)
リーフにその店の場所を聞いたスロウは、剣の練習より先に、買い物に行く事にした。
少し歩いた所にある、リーフに言われた店のクッキーを買って、外に出ると、スロウは遠くにクリアーの姿を発見した。
(クレア様だ……買い出し中かな……今日も……可愛いな……)
クリアーはブラックに頼まれたクッキーを買いに来たのだが、スロウがリーフに頼まれた店と同じだったので、遭遇はしなかったが姿を見かける事になったのだった。
(ロスト様に……仲を深めてくれって……言われたけど……あれからクレア様とは……話してないな……尾行で見てはいるけど……カナメの……思い出せるといいねって言葉も……なんだったんだろ……)
そう考えながら相手を眺めていると、今度はクリアーが、さっきスロウがクッキーを買った店に入って行った。
(あ……もしかして今って……話すチャンス?? 追いかけるべき?? でも……急すぎるし……)
スロウが迷っていると、背後からロストが現れた。
「クレアは今日も元気そうだな」
「な!! ロスト様!? あれ? クレア様の……尾行中ですか??」
スロウにそう聞かれ、ロストは淡々と答えた。
「役場に賞金首の情報収集に行こうと思ったのだが、途中でクレアを見つけたので、尾行に切り替えた」
その言葉に、スロウは思う。
(気の向くままに……尾行するんですね……さすがロスト様……)
尾行生活に慣れてしまったスロウは、段々尾行話に違和感がなくなってきていた。
「私はしばらく尾行をするが、スロウはどうする?」
そう言うロストにスロウは、腰に下げた自分の剣を見つめて、答えた。
「俺はこのあと……剣の練習をするので……また別の時に……」
「そうか。頑張れ」
応援するように、ロストはスロウの肩を軽く叩く。
「はい!」
二人は笑顔を交わし、その場を離れた。
まだおやつの時間には早いので、リーフにクッキーを渡す前に、スロウは宿の裏にある広場に行き、剣を振りはじめた。
(ロスト様は……剣の練習とか……あんまりしないけど……頻繁に賞金首と戦ってるから……剣……衰えないもんな……俺は家事もあるし……そんなに一緒にいけないしなあ……)
そう考えていると、急に何かが飛んできた。
「!」
スロウはとっさに飛んできた何かを、剣で叩き落とした。よく見ると、それは紙のようだった。
「何……? 丸めた……紙??」
「おー、すげえな」
「?」
声の方に視線を向けると、そこにはフィックスが居た。
「棒人間……」
「棒人間言うな……」
スロウはフィックスを見つめながら、不思議に思う。
(クレア様とは……違う宿に泊まってるのに……なんでこんなとこに……)
「……」
「剣すげえなあ、速過ぎて全然見えねえわ」
「……どうも」
褒められたスロウは、軽く会釈をする。そんな相手の剣の動きを見ていたフィックスは、しばし黙り込んだ。
(マジでやりあったら勝てねえな……俺は一般人よりは相当強いけど、めちゃくちゃ強いわけじゃないからな……こいつはめちゃくちゃ強い部類だ……『千の力』も持ってるし……戦闘になったら逃げるしかねえなあ……ロストはもっと強いって事か?)
フィックスはそう思いながら、話を振った。
「しかし、偶然だよな……」
そう言われ、スロウは動揺から、一瞬、体をビクッと動かした。
「!! …………そう……だね……」
後ろめたさから、スロウは目が泳ぐ。しかしそんな様子には構わず、フィックスは続けた。
「……ちょっと話あるんだけど、面貸せよ」
「え?」
「俺の宿の部屋で、茶でも飲みながら話そうぜ」
急な誘いをスロウは警戒し、視線をそらした。
「そ……そんな暇……ないし……」
忙しいという嘘の理由で断ろうとしたスロウに、フィックスも負けじと嘘の理由を告げる。
「…………クリアーも会いたがってるぞ、お前に」
その言葉に、スロウは驚き、フィックスを見た。
「え!? クレア様が!?」
(こないだ……カフェデートしたから……好感度上がって……まさかホントに……俺を好きに……?? さっき見た時も……実は……俺の事……考えたりしてた??)
都合の良い妄想をし、しばらく固まっていたスロウだったが、我に返ると、少し照れたように答えた。
「しょ……しょうがないなあ……」
スロウのその反応を見たフィックスは思う。
(ちょろい……)
こうして、フィックスはスロウとお茶をする事に成功した。
スロウを連れて、宿の部屋に戻ったフィックスは、相手を先に部屋に入れた。
「? クレア様は??」
そう言って部屋を見渡すスロウを無視し、フィックスはドアに鍵をかける。
「なんで……鍵まで……」
不思議そうにするスロウに、鍵のキーリングを指に引っかけて回しながら、フィックスは答えた。
「クリアーは居ねえよ、今買い出し中。鍵は……お前がすぐ逃げねえように……」
スロウはきょとんとしたが、次の瞬間、その意味に気づいた。
「は!? まさか……だました!?」
「こんな簡単に引っかかるとは思わなかったけどな」
真顔のフィックスに、スロウが叫ぶ。
「嘘つき!!」
その言葉に、フィックスは眉をひそめる。
「それ、お前が言うのかよ……」
「え?」
フィックスはスロウにゆっくり近づいて、相手をじっと見つめた。
「話があるのはホントだよ」
「?」
スロウが首を傾げていると、フィックスは椅子を指さした。
「まあ座れよ、茶は淹れてやるからさ」
「…………わかった」
そう答えたスロウは、とりあえず座って、お茶を待つ事にした。逃げないと判断したフィックスは、お茶を淹れ、一緒にテーブルに着く。
「相変わらず……美味しくはない……」
お茶を一口飲んだスロウが、淡々と感想を述べる。
「まずくもねえだろ……茶は淹れるの苦手なんだよ……じっくりやらなきゃ美味くならねえし、面倒くせえ……」
フィックスのその発言に、スロウは思う。
(面倒……くさがり屋? ……気が短いのかな……脳筋……っぽいもんな……)
「ふぅん……で、何? ……話って」
お茶をすすりながら、スロウは相手を見つめた。
「お前、クリアーをストーカーしてるだろ」
そう言われ、スロウは動揺した事で、飲んでいたお茶が変なところに入り、激しく咳込んだ。
「ゲホゲホッ!!」
「わかりやすい反応だな」
白けた表情で自分を見るフィックスに、スロウは弁解する。
「ち……ちがっ! ストーカーじゃないし!!」
「じゃあなんだよ」
「………………」
咄嗟に言い訳が思いつかないスロウは、沈黙してしまった。
「俺らが新しい街に着いたあと、必ずお前らも現れるよな?」
それに対し、スロウは目をそらして答えた。
「偶然……だし……」
「そんな偶然があるかっ!!」
叫ぶフィックスに、スロウは口を尖らせてつぶやく。
「俺がしてるわけじゃ……ないし」
「ロストか?」
「!!」
スロウはまた動揺し、体を一瞬振動させた。そんな様子に、フィックスは睨むように続ける。
「ロストの命令でしてんのか?」
「………………」
言い訳が思いつかないスロウは、またも沈黙してしまう。
「無言が答えみたいなもんだな」
「………………」
(ごまかせる……言葉が……見つからない……)
そう考えながらスロウが俯いていると、フィックスは、少し優しい口調で続けた。
「お前も『千の力』の持ち主だよな?」
目をそらしていたスロウは『千の力』の事を言われ、フィックスを見た。
「……うん……」
「『千の力』を与えた奴に、会った事あるか?」
その言葉に、スロウは軽く首を傾げた。
「?? 何それ??」
「知らねえか…………お前は『千の力』をどうやって手に入れたんだ? ロストからか?」
少し睨むように、スロウは答える。
「……そうだけど……詳しくは……言いたくない……」
「そっか……」
ずけずけと質問してくるフィックスを、スロウは強く睨んだ。
「仲良くもない相手に……よくそんなに色々聞けるね……デリカシーないって……言われない?」
デリカシーがない。人に一番言われる言葉を口にされ、フィックスは傷ついた。
「ぐっ!! ……い……言われるけど……今それ関係ねえし……」
「ロスト様の事は、何も言わないよ」
普段は話す時に間のあるスロウだが、ハッキリ言う時には、どうやら間がなくなるようだった。
「ロストの事が聞きたいってわけじゃなくて……俺……ていうかコールは『千の力』を与えた奴に頼まれて、お前らが悪い『千の力』を広めようとしてるのを……」
フィックスの言葉を、スロウは眉間にシワを寄せて聞き返した。
「悪い『千の力』?? ……何それ?」
「へ??」
二人はしばし、不思議そうに見つめ合う。
「?? ……お前らって……悪い『千の力』を広げようとしてんじゃねえの?」
フィックスのその話に、スロウはさらに不思議そうにした。
「は? 何言ってんの?」
「え??」
スロウは何かを思い出し、視線を上へ向ける。
「そういえば……ロスト様も……クレア様に『千の力』を広げようとしてるのかって……聞かれたって言ってたな……」
その事を、フィックスも思い出した。
「ああ、前、クリアーが偶然会ったとかなんとか言ってたな……偶然って、疑わしいけどな……」
「!!」
(監視中にバレたやつ!)
スロウはそう思い、フィックスから視線をそらして言う。
「……偶然だし……」
「…………まあ、それは今は一旦置いといて……お前らの旅の目的ってなんだよ」
その問いに、スロウはあっさりと答えた。
「特にないし」
「特にない??」
スロウはフィックスを真っすぐ見て続けた。
「うん」
「ないのに旅してんのかよ」
そう言われたスロウは、少し寂し気に俯く。
「特に……留まるとこも……ないしね……」
「……わけありなのか?」
俯いたまま、スロウは視線だけをフィックスに向けた。
「……棒人間には……関係ないじゃん」
「そうなんだけど……ブラブラ適当に旅してる時に、クリアーを見つけて、ストーカーしはじめたって事か?」
その言葉に、スロウは再び、眉間にシワを寄せる。
「ストーカーじゃないし」
「ストーカーだろうが」
相手のその指摘は無視し、スロウは続ける。
「……クレア様は……ロスト様の……大事な人だから……」
遠くを見ながら、切なそうに語るスロウに、フィックスは目を見開いた。
「……こ……恋人?」
フィックスは動揺して、声が上ずった。スロウはそんな声の違和感に気づき、相手をじっと見て答える。
「……ではない」
「良かった……」
安堵するフィックスを、スロウは不思議に思った。
「良かった?」
「はっ! いや! 別に!」
動揺しながら大きな声を出すフィックスの様子に、スロウはひとつの可能性を思いつく。
「? ……棒人間……クレア様の事……好きなの?」
「!!」
フィックスは図星を突かれ、真っ赤になった。スロウは相手のその反応を、目を見開いて、黙ってじっと見つめていた。



『千の希望』人気エピソード