ショートストーリー 「床ドン」

【恋愛ファンタジー小説】『千の希望』ショートストーリー 「床ドン」[アイキャッチ]

 天気の良い昼下がりに、コールとフィックスとブラックは、部屋でゆっくり過ごしていた。
 テーブルに伏せって休憩をしていたブラックは、段々眠くなり、小さな寝息を立てはじめた。
「おいブラック、昼寝するな」
 フィックスが注意するが、ブラックはぼーっとして動かない。
「んー……」
「クリアーみたいに寝れなくなるぞ」
 ベッドの上に座ってタオルを畳みながら、フィックスが呆れた顔で言う。
「へーい……」
 ブラックは寝ぼけながらも立ち上がり、フラフラと歩いたが、フィックスのベッドの横を通る時に、足が当たってしまった。
「お……」
 よろけて、座っていたフィックスに覆いかぶさり、押し倒す形になった。
「おい……」
 フィックスは眉間にシワを寄せて、物凄く迷惑そうな顔をした。ブラックは倒れた事で、やっと目が覚めたようだ。
「にゃはは☆ ごめんごめん☆」
「寝ぼけながら歩くな」
 手で押し返すように、フィックスが相手を立たせると、ブラックは自分の頬に手を添えて言った。
「いやー☆ 床ドンしちゃったー☆」
 聞きなれない言葉に、コールがきょとんとする。
「床ドン? ……ってなんですか?」
「え? 床ドンはねー☆ 今みたいに相手を押し倒したりして、床にドーン☆ ってなるやつ☆」
「へえ……」
 ブラックはフィックスの顎に指を当て、顔を上に向けた。
「ちなみにこれは顎クイ☆」
「俺で再現するな」
 またまたフィックスは、とても嫌そうな顔をした。
「俺様もするなら女の子がイイよ☆」
「前、クリアーにしてただろお前……」
「ああいうのがイイねー☆」
 意味を教えてもらったコールは、納得した様子で言った。
「言葉そのままなんですね」
「そうだねー☆」
 フィックスは顎に添えられたブラックの手を払い、苦虫を嚙み潰したような顔をしている。二人のそんなやり取りを、コールは笑顔で見ていた。
「俺ちょっとお手洗い行ってきますね」
「はーい☆」
 コールがドアに向かう途中、フィックスが口を開いた。
「あ、戻る時、クリアーにこっち来てって伝えてくれるか?」
「はい」
 お手洗いを済ませたあと、フィックスに言われた通り、クリアーの部屋の前に来たコールは、ドアをノックした。
「クリアー、ちょっといい?」
 しかし、中から反応はなく、しんとしている。
「ん? 居ないのかな?」
 少し佇んでいると、小さくクリアーの声がした。
「コール……」
「あ、クリアー居た。入るよ?」
「ん……」
(なんか声小さいな……)
 ドアを開けると、椅子で寝ているクリアーの姿が目に入った。
「椅子で寝ちゃってる……てことは、今のは寝言?? 風邪引くよ、クリアー」
 コールが声をかけても、スースーと寝息をたて、クリアーは寝ている。
「ふふ……寝ながらしゃべるなんて器用だな」
 コールはクリアーをお姫様抱っこして、ベッドに運んだ。
(気持ちよさそうに寝てるから、もう少し寝かせておこう)
 運ぶ途中、クリアーは寝言を、もごもごと言った。
「猫ちゃん……そっちじゃないよ……こっちだよー……」
(猫と遊んでる夢見てるのかな?)
 そっとベッドに下ろすと、急にクリアーがコールの首にしがみついた。
「え!?」
 バランスを崩し、コールはベッドに倒れこんだ。クリアーの顔が、目と鼻の先にある。
(うああああ!)
「うーん……猫ちゃん……おいで……」
(なんて体勢に……これは……さっきブラックさんが言っていた……床ドン!! ……ど……どうしよう……!)
「ふふふ」
 クリアーは楽しい夢を見ているようで、にこにこしている。
「かわいい……」
 コールが好きなフローラルの石鹸の香りが、クリアーから優しく漂う。抱きしめられたような体勢もあって、鼓動が急速に激しくなっていく。
「……」
 その時、コールは何かの視線を感じたので、ドアの方を見た。するとそこには、にやにやしながらこちらを見ているブラックが居た。
「!!」
 ブラックは親指を立てて、コールに笑顔でウィンクした。
「イイね!!」
「違うんです!!」
 真っ赤になって否定するコールだが、ブラックは全く聞いてくれない。
「コールくんも男だねー☆」
「違いますからっ!!」
「またまたー☆」
「聞いてください!!」
 こんな事が起きているのはわからないはずなのに、夢が相当楽しいのか、寝ながら、嬉しそうな表情をクリアーはしていた。
「ふふ」
 もしかしたらこの時は、現実の方がクリアーにとっては楽しかったのかもしれないが、残念な事に、しばらく夢から覚める事はなかった。

 一日の活動を終え、就寝時間になったので寝ようと思ったクリアーだが、長く昼寝をしていたので、また眠れなくなっていた。
 クリアーはコール達の部屋に行き、フィックスを呼び出した。
「フィックス……昼、寝ちゃって眠れない……話し相手に……」
「いい加減にしろ、赤ん坊」
 文句を言いながらも結局応じ、またまた寝不足になるフィックスだった。

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