ショートストーリー 「プレゼント」

 花屋での仕事をしていたコールだったが、店主に頼まれ、一人だけ予定よりも二日多く入っていた。
 土や肥料などの重い物を動かしたりして大変だったが、やっと全ての作業が終わりを迎えた。
「ふー、終わった!」
 コールは額にかいた汗をタオルで拭い、一息ついた。
「お疲れ様! 重くて大変だったでしょう?」
 雇い主の女性店主が、コールの後ろから声をかけた。
「いえ! お役に立てて良かったです」
「思ったより作業多くて、ごめんなさいね。一日の予定だったのに……ホントありがとう! これお給料と……あなた特に頑張ってくれたから、一本どうぞ!」
 そう言うと店主は、マーガレットを一輪、差し出してきた。
「ありがとうございます!」
 そっと花を受け取り、コールはその場をあとにした。貰った花を眺めながら、帰り道を歩く。
「綺麗だなあ……クリアーにあげたら喜ぶかな?」
 コールは軽い気持ちで、花をクリアーにプレゼントしようと考えた。

 宿に帰ったコールは、さっそく廊下に居るクリアーと遭遇した。 
「あ! コール、おかえりなさい!」
「ただいま」
「何持ってるの?」
「これ、花屋で貰ったんだけど、クリアーいる?」
 それを聞いたクリアーは、目を大きく見開いた。
「良いの!?」
「え? うん……」
 クリアーはコールから花を受け取ると、とても嬉しそうな笑顔を見せた。
「わー嬉しい!!」
(コールからはじめて、食べ物以外の物貰った!)
 まるで宝物でも見つけたかのような喜び方をするクリアーに、コールは戸惑った。
(あれ?? ……思ってた十倍ぐらい嬉しそう……ありがとーくらいだと思ってたのに……)
「えへへー!」
(こんなに喜んでもらえたなら、ちゃんと買って渡せば良かったな……)
 コールが自分の行動を少し後悔していると、フィックスとブラックが部屋から出てきて二人を見た。
「なんだその花」
「コールに貰ったの!」
「お! 良かったねクリアーちゃん!」
「うん!!」
 クリアーは貰った花を笑顔で見つめていたが、ふと、ある事に気が付いた。
(でもこれ……このままにしてたら枯れて、すぐ捨てなきゃいけなくなっちゃうな……せっかくコールに貰ったのに……)
 急にしょんぼりしたクリアーの様子が気になったブラックは、疑問に思って声をかけた。
「どうしたの?」
「これ……ずっと持ってたいなって……」
「…………じゃあ、押し花にでもしたら?」
「押し花……そっか! ありがとうブラック!!」
「いえいえ☆ あ、俺様ちょっと散歩してくるねー☆」
「いってらっしゃい!」
 ブラックは散歩に出て行き、良い案をもらったクリアーは、コール達の部屋で、さっそく押し花作りを始めた。
 そんなクリアーの様子を見ていたコールは、何も悪い事をしていないのだが、いつの間にか、後悔から罪悪感に気持ちが変化していた。
(えええ……そんなに嬉しかったなんて……)
 コールはいたたまれなくなり、気持ちを整理する為に、外に散歩に出かけた。
 ブラックとコールが散歩に出ている中、洗濯物を終えたフィックスが、部屋に戻って来た。そして、押し花作りをしているクリアーに近づき、その手元を覗き込んだ。
「ホントに押し花つくんのか?」
「うん!」
 プレゼントについて、フィックスは思った。
「そういやお前に、食いもん以外になんかやった事ってねえな……」
「そうだね」
(花なんてやる柄じゃねえしな……)
「お前……なんか欲しいもんとかあんの?」
「え?」
 急な質問をされて、クリアーは不思議そうに、フィックスをじっと見た。
「いや……安いもんとかで」
「?」
 フィックスは段々顔が赤くなり、落ち着かなくなった。
「な……なんでもねえよ! ちょっと散歩してくる!」
「うん」
 そのままフィックスも部屋を出て行き、男性陣は全員散歩に行ってしまった。クリアーは一人部屋に残り、押し花作りを楽しんでいた。

 様々な店のある通りを歩きながら、フィックスはプレゼントの事を考えていた。
「プレゼント……ねえ……」
 すると、一軒のアクセサリー屋が目に入った。女性が好きそうな綺麗なアクセサリーが、テーブルにたくさん並べてある。
 その中から、キラキラした小さな装飾の付いた髪紐を、フィックスは見た。
(あいつも女なんだから……こういうの……ほしいのかな……)
 よく見ると、装飾部分には、猫も描かれていた。
「ね……こ……」
「何見てんのー?」
「おわ!」
 背後から急にブラックが現れ、フィックスはひどく驚いた。
「髪留め? 俺様に買ってくれんのー?」
「なんでお前に買わなきゃいけねえんだよ……」
「……じゃあ、クリアーちゃんに?」
「は!? なわけねえだろ! なんで俺があいつに飾りなんか!」
 髪留めを戻し、顔を真っ赤にして、フィックスは去って行った。
「あらら、素直じゃないなあー。…………全く、しょうがないねー☆」
 ブラックは笑いながら、フィックスのあとを追った。

 そして一週間後、押し花が完成した。
「できた!!」
 押し花を掲げ、クリアーは満足そうにしている。
「良かったね☆」
 ブラックも押し花の完成を一緒に喜んだ。
「ブラックのおかげだよ! ありがとう!」
「にゃはは☆ どういたしましてー☆」
「コール見て! 押し花にしたよ!」
 クリアーに近づき、コールは笑顔を見せた。
「綺麗だね!」
「うん! えへへ!」
 コールは自分の荷物の中から、何かを取り出した。
「クリアー」
「ん?」
「これ……」
 そう言ってコールが差し出した物は、持ち手の先が猫の形をした、木のスプーンだった。
「……かわいい……猫のスプーン」
「クリアーに」
 コールはあれから、クリアーにちゃんとした物を贈りたいと思い、街であれこれ探して、スプーンを買ってきたのだった。
「くれるの? ありがとう! 嬉しい!!」
 ちゃんとした贈り物がやっと渡せて、喜んでもらえて、コールはホッとした。そんな二人を見ていたフィックスもまた、自分の荷物から何かを取り出した。
「……」
 そしてフィックスはクリアーの横に、無言で立った。
「フィックス、どうしたの?」
 ゆっくりと一歩前に出て、クリアーに手を差し出す。
「……これ」
 その手の中には、前にブラックと見たアクセサリー屋の、キラキラした装飾付きの髪紐があった。
「髪留め?」
「顔洗う時にでも使えば?」
 フィックスは顔を真っ赤にして視線をそらし、ぶっきらぼうな態度で佇んでいる。
「……ありがとう! 大事に使うね!」
「おう……」
 フィックスから髪留めを受け取り、クリアーは装飾をじっと見た。
「あれ、これ装飾のとこに猫がいる!」
「た! たまたまだ!! 偶然!! お前が猫好きだからそれにしたとかじゃないから! 意味とかねえからなっ!!」
 限界まで顔が真っ赤になったフィックスが可哀想で、ブラックが助けに入った。
「ホント言い方が素直じゃないねー☆」
 一週間前に、フィックスがアクセサリー屋を見て去ったあと、ブラックは素直じゃないフィックスがなんとか買えるように、あれこれ言って買わせ、プレゼントさせる事に成功したのだった。
「クリアーちゃん、俺様からも、はい!」
 ブラックが差し出した物は、小さな容器に入った口紅だった。
「わ……口紅! すごい! こういうの普段付けないから嬉しい! 特別な時につけるね!」
「花屋のバイトのお金で買ったから☆ 泥棒はしてないから安心してねー☆」
「え……盗品だとは思ってないよ、ボク」
「にゃはは☆ 信用してもらえてて良かったー☆」
「バイト大変だったのに、ありがとう!」
「いえいえ☆」
 はじめてみんなから食べ物以外のプレゼントを貰って、クリアーはとっても嬉しかった。
「みんなありがとう!! すっごく嬉しいよ! へへ!」
 大喜びしているクリアーを、三人は笑顔で見つめた。そして貰ったプレゼントは、クリアーの宝物になった。

 翌朝、クリアーはさっそくフィックスに貰った髪留めを使う事にした。あとから来たフィックスが見ると、クリアーは洗顔時に、前髪を束ねる為に使っていた。鳥のトサカのように立った前髪、その姿は、大人の女性というよりは、幼児のようだった。
「あ、フィックス! 髪留め便利だね!」
「お……おう……」
(あれ? なんかイメージと違う……もっと可愛くなるように使うかと……)
 まだまだ恋愛の良いムードとは、無縁のクリアーだった。

◇第一話から読む◇

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