清々しい朝を迎えたクリアーは、顔を洗って身なりを整えると、コール達の部屋へ向かった。
「今日の朝は外食って言ってたもんね。どこ行くのかなー?」
そう独り言をつぶやくと、開いていた部屋のドアから、大きな声で挨拶をした。
「フィックス、おはよー!」
「おはよ」
クリアーの方を向いて返事をしたフィックスの手元には、紙と羽ペンがあり、何かを書いている様子だった。
「何書いてるの?」
「カレンへの手紙」
「カレンさんへの手紙?」
クリアーはフィックスの隣に座り、首を傾げる。
「街に着いたら送ってんだよ」
「え!? そうだったの!?」
驚くクリアーに、フィックスは淡々と答えた。
「おう」
「もー! 教えてよ! ボクも送りたい!」
手紙を送っていた事を知らなかったクリアーは、眉間にシワを寄せてフィックスを見る。
「いや……生存確認みたいなやつだから……そんな長々と書いてねえし」
「見せて」
手を伸ばすクリアーに、フィックスは手紙を渡した。
「ん」
(なんて書いてるのかな……)
わくわくしながら受け取った手紙には、次のような事が書かれていた。
【今『絆の街』にいる
クリアーは元気だ
コールも元気だ
以上】
「何これ!」
「だから……生存確認の手紙」
フィックスの簡単過ぎる手紙に、クリアーは呆れた。
「普通に書いたらいいじゃない!」
「やだよ。街に着いたら毎回書いてんのに、きちんと書いたら大変だろ」
そう言われ、クリアーは思う。
(カレンさんが心配しないように書いてるんだよね……優しいなあ、もう……)
フィックスの優しさに、心が温かくなったクリアーは、微笑みながら続けた。
「今回はボクも書いていい?」
「いいけど……何書くんだよ」
羽ペンを受け取ると、クリアーは楽しそうに描きだした。
「絵!」
「あ、お前得意だもんな」
「うん!」
サラサラと、クリアーは猫のゆるい絵を描いていく。
「猫……」
「うん! ボクが描いたって、すぐわかると思うよ!」
出来上がっていく絵を見ながら、フィックスは言葉を漏らす。
「味のある絵だな」
「へへ! フィックスは絵、描かないの?」
肘をつき、面倒くさそうにフィックスは答える。
「俺、そういうかわいいの描けねえし」
「かわいいのじゃなくてもいいじゃない」
「そもそもそんなに上手くもねえし、時間もかかるし、却下」
そう話すフィックスを見つめ、クリアーは少し残念そうな声を出す。
「そっかー。フィックスの絵、見てみたかったなー」
猫の絵を描き終わったクリアーは、羽ペンをフィックスに渡した。
「字も絵みたいなもんだろ。俺の字見て満足してろ」
「えー」
相手の不満そうな声は無視し、フィックスは新しい紙を手に取り、クリアーと書いた。
「ほら」
「……」
自分の名前が書かれた紙を見つめ、クリアーは固まっている。
「ん? どした?」
「これ……もらってもいい?」
「? いいけど……なんで?」
クリアーはフィックスを見つめると、嬉しそうに言った。
「……フィックスに、名前書いてもらったの、はじめてだから!」
その言葉に、フィックスは首を傾げる。
「そうだっけ?」
「そうだよ! 管理表は、みんな自分で自分の名前書いてるし!」
クリアーに言われた内容を思い返し、納得すると、フィックスは新しい紙を手にした。
「……じゃあ、俺にも書いて」
「うん!」
今度はクリアーが、紙にフィックスと書いた。
「はい!」
「……ああ、まあ、確かに……嬉しいな」
「でしょ!」
紙に書かれた自分の名前を眺めていたフィックスは、軽く笑い、クリアーを嬉しそうに見つめた。
「俺も……もらっとく」
「うん!!」
二人が微笑み合っていると、コールとブラックが部屋に入って来た。
「棒兄ちゃーん☆ おはよー☆」
「おはよ」
ブラックはフィックスの背後に立ち、にこにこしながら続ける。
「食事誘ってくれてありがとー☆」
「外食だけどな。四人で使える朝食割引券もらったから」
そう言いながら、フィックスが立ち上がって外出の準備をはじめると、クリアーは叫んだ。
「あ! コールとブラックも書いて!」
「何を?」
不思議そうに返事をするコールに、クリアーはさっきの紙を見せる。
「紙に名前書いてもらったの!」
「いいよ」
笑顔で答えるコールに続き、ブラックも楽しそうな声を出す。
「俺様もいいよー☆」
そして、先にコールが紙に、クリアーの名前を書いた。
「あー、コールくんって感じの、真面目な字だねー☆」
ブラックのその発言に、コールは首を傾げる。
「字に真面目とかあるんですか??」
「あるある☆」
後ろで見ていたフィックスも、うなずきながら言う。
「あるな。きっちりしてる字とかな」
「フィックスさんも綺麗な字ですよね」
「字、綺麗だとモテるからな。こどもの頃、めちゃくちゃ練習した」
フィックスの理由に、ブラックは笑いだした。
「にゃはは☆ なんでもモテにつかう☆」
「お前も書けよ。いつものミミズみたいな字でよ」
ムッとした顔のフィックスを、笑いながら見ていたブラックは、羽ペンをコールから受け取り、視線を紙に移す。
「いやー☆ クリアーちゃんへ書くなら、ちゃんと書かなきゃでしょー☆」
ブラックは姿勢を正すと、とても綺麗な字を書いた。
「うまっ! お前! いつもわざと下手に書いてんだろ!」
フィックスの指摘に、ブラックは書きながら答える。
「わざとっていうか、テキトーに書いてるだけだよ☆」
そのままサラサラと、綺麗な字でクリアーと書いていく。
「ギャップがすげえ……いつもは読めるか読めねえかの、ギリギリのミミズ字のくせに……」
「にゃはは☆ はい☆ クリアーちゃん☆」
ブラックから紙を受け取ると、クリアーはそれを見つめた。
「……」
「クリアー、どうしたの?」
コールの言葉に、クリアーはゆっくりと答えた。
「なんだかこれ……ボクへの手紙みたい……」
クリアーの背後から紙をじっと見て、フィックスは首を傾げる。
「クリアーって、みんなで書いただけじゃん……」
みんなが自分の名前を書いてくれた紙は、記憶喪失のクリアーにとって、特別なものだった。
「嬉しい! ありがとう!!」
満面の笑みを向けてくるクリアーに、フィックスは照れながら返す。
「おう」
続いて、コールも笑顔で頷く。
「うん!」
「どういたしましてー☆」
ブラックも、喜ばれた事にとても喜び、にこにこと微笑んだ。
(カレンさんもきっと、毎回こんな気持ちだよね!)
クリアーはそう思いながら、手紙の楽しさが知れて、ご機嫌になった。

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